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【ヴィー】それぞれの策略

 カイリーは、入学してすぐに【悪役令嬢】から呼び出しを受けた。

 他の【メインキャラの婚約者達】も一緒だった。

 この時、【悪役令嬢】から「神託」について聞かされた。



 神獣ヒューに選ばれたことで王太子の婚約者になった【悪役令嬢】は、その座を【聖女】に譲るつもりの様だった。


 この国の守護神獣が変わってしまうかのような「神託」に、カイリーは震えあがった。

 他の令嬢達も同じだっただろうと思う。


 カイリーも【聖女】に【シスコン】の兄を譲るべきだと言われた。


 婚約者を譲ることになる他の令嬢たちと違い、血のつながった兄に執着されるのを気味悪がったカイリーは、兄は【聖女】にあげてしまうのが上策だと判断した。



 事情が変わってきたのは、カイリーが【隣国王子】と密かにお付き合いするようになった後、【悪役令嬢】が猛烈にしょぼい姿の彼を目で追っているのに気付いたからだった。


 【隣国王子】が令嬢たちと連れ立って歩いている自分に目線を送ると、隣で【悪役令嬢】が顔を赤らめているのだ。


 【悪役令嬢】は、王太子ランパードの婚約者を下りた後、【隣国王子】を狙っているのが明らかだった。



 カイリーは、恋人の【隣国王子】に相談し、【隣国王子】は隣国の諜報部に【悪役令嬢】の動向を見張らせた。


 結果、表では王太子を奪い合う【悪役令嬢】と【聖女】が、裏で結託し密会を重ねていることが分かり、二人の密会場所には盗聴器が仕掛けられた。


 それで、全てが隣国に筒抜けとなり、文通相手はこれをこの国を征服する足掛かりに利用することにした。


 カイリーは【悪役令嬢】の取り巻きとして表の情報を収集し続け、【隣国王子】は諜報部を使って裏の情報を収集し続けた。



 わたくしは、領地が二国に挟まれただけの学園部外者だから詳しくは知らない。



 【悪役令嬢】と【聖女】による王太子ランパードの婚約者入れ替え作戦の総仕上げは、卒業パーティーの「断罪劇」らしく、万が一、カイリーと【隣国王子】に身の危険が迫った場合、この国の現役侯爵であるわたくしが速やかに保護して欲しいと文通相手に頼まれたから、【隣国王子の婚約者】の役をもらって、ついてきただけだ。


 義弟に見つかって云々は、カイリーが心配していたが、わたくしはむしろ、義弟は卒業後は当家の家門から出ることを望むだろうと思って、養子縁組の解消手続きの準備を整えて来た。


 だが、カイリーが正しかった。

 義弟は、目の前で片膝をついて、わたくしに忠誠を示している……


 何が起きているんだ?


 片膝をついたままの義弟を放置し続けるわけにもいかない。カイリーと同じように両手を掬って立ち上がらせ、その両頬にキスをしようとした正にその瞬間、間の抜けた声が飛んできた。



「ひどぉい。今日は卒業生が主役なのにぃ。突然やって来て、ケイに服従を誓わせるなんて、野蛮ですぅ」


「くっ」


 わたくしが野蛮だと言われて呆然としている間に、真っ赤な顔して屈辱に震える義弟の身体は間の抜けた声の主に奪われ、その腕はゴージャスなプリンセスドレスに辛うじて隠れている豊満な胸に押し付けられたように巻き取られている。


 うぇっ。

 なんだこれ!?


 わたくしはドン引きした。



「あれが【聖女】だよ」


 いつの間にかわたくしの横に戻った【隣国王子】が小声で耳打ちすると、今度は義弟が目を見開いてこちらを凝視している。


 ん?

 なんだ?


「ほら、皆んなも立って! マーくんが言ったように、学園内では身分関係なく平等です!」


 マー君とは【隣国王子】マーカスの事だろう。


 わたくしの派閥の子女たちの視線が一斉にわたくしにあつまり、わたくしはそれに頷きで「面礼」を示唆した。


 【聖女】の傍に駆け寄ってきた小綺麗な令息たちが揃ってこちらを睨みつけているんだが、わたくし、口を開かず見ている役を貰っただけだから、どうしていいか分からない。


 困惑していると、わたくしの隣に立っている【隣国王子】が手振りで「しっしっ」と示した。



「今、【聖女】を取り囲んだのが、【スパダリ】、【脳筋】、【インテリ】、【不思議ちゃん】だよ」


 ふむ。


 隣国第3王子が、この国の王太子を「しっしっ」と追い払ったのを見てしまった。

 既にそういう力関係でいいんだな?


 それにしても、王太子ランパードが【スパダリ】か……

 モヤっとするが、まあ、いい。


 いろいろな疑問を頭に浮かべているうちに、義弟は【聖女】の集団に飲み込まれて少し離れた場所に連れ去られてしまった。


 カイリーは、「わたくしも配置に着きます」と言って、【悪役令嬢】の側に向かい、侍っている。


 義弟は、こちらにチラチラと視線を送ってくるんだが、その悲し気な瞳がなんとも……



「こ・い・ぬ、来ちゃった?」


 ぎょっ。

 何故、子犬みたいだと思ったことが分かった!?


「くぅ~んって、聞こえてきそうな顔しているよね」


 エスコートの腕に乗せたわたくしを手をこれ見よがしにナデナデして義弟を挑発しながらニヤニヤしている君は、【腹黒】に改名した方がいいんじゃないか?



「ははっ。いいねぇ~。君も動揺することがあるんだね? 君はイヌ派だから、ああいうのには弱いよね」


 この無言キャラ、止めていいか?

 言いたいことがあるんだが!?


 彼氏が別の女性の手をナデナデしているのを見たカイリーの表情は……


 笑いを堪えて俯いているから、これでいいのかもしれない……



「よしよし。君の子犬は動揺する君を絶対に誤解している。これを利用して彼を取り戻すことにしよう。ちょっとこっちを向いて。うん、この角度でいいな」


 よくわからないが、義弟たちの集団に背を向けて立たされた。



「あの子はこちら側につきたくないかもしれない。取り戻すにしても、今じゃない方がいいんじゃないのか?」


「ケイレブ卿がこちらにおびき寄せられたら断罪劇が少し変わってしまうかもしれないけど、大勢(たいせい)に影響はないから大丈夫。もしこれで彼が寄ってきたら、その瞬間から君の庇護下に入れてあげてね?」


「わかった」



 隣国は恐らく数年以内にこの国を攻めとる。


 わたくしの文通相手は気が短いので、何年もかけて地道に切り崩していくようなことはしないだろうし、短期集中で一気に攻め落とすに違いない。


 その際、我が領は隣国側につくことを既に決め、密かに軍備も進めている。


 中間に位置する我が領が隣国側につけば、ほぼ間違いなく、隣国が勝つ。


 しかし、義弟はこっちの国の高位貴族の子息達と親しくしている。義弟が敗戦側となることが分かり切っている状況でもこの国に忠義を尽くしたいのであれば、そうさせてやりたい。


 一方、彼が溺愛する双子の妹カイリーは、隣国第3王子の恋人で、わたくし達に忠誠の礼をとったくらいだから、隣国側につくだろう。


 彼は親しい友人達と溺愛する妹、どちら側につくのだろうか?


 義弟のことを知らな過ぎて、まったく分からない。


 彼の希望に従うため、我が家との養子縁組を解除する準備も整っているが、この子は全く領地に帰ってこないし、会いに行っても会ってくれないから、話しすらできない状況が続いていた。


 我が家は国家転覆の逆賊になりますなんて、手紙に書くようなことじゃない。


 それに隣国側に寝返るのはもう少し先の話だ。


 逆に、今から始まる断罪劇で義弟が【聖女】側につかなかったら、明日以降、彼らの下に戻れなくなるんじゃないかが心配だ。



「いたっ。あ、なんか、目に入った。これ持っていてあげるから、ゴミが入っていないか見てくれない?」


「ん?」


 そう言いながら乾杯用のシャンパングラスをわたくしの手から奪い取って身をかがめて顔を近づけてくる【隣国王子】の瞳を覗き込んでみたが、何も入っていない。


 美しい金色の瞳以外、何も見えない。

 首を横に振って何も入っていないことを伝えた。


「おかしいな。下瞼がゴロゴロするんだ。下瞼を引っ張ってちゃんとみてみてよ」


「ん~」


 わたくしが【隣国王子】の頬に手を当て、頬を引っ張って下瞼を覗き込むために顔を傾けた瞬間、後ろから腰を引き寄せられ、大きな手がわたくしの口元を覆った。


「義姉上! 何をやっているんですか!? はした……」


 びくぅっと身体を緊張させ、振り返ると鬼の形相の義弟が殺気をほとばしらせながらわたくしを抱き寄せていた。


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