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【ヒュー】か弱き者「ヒト」

 原初、この世界には俺様たちしか存在しなかった。


 俺様たちはそれぞれの縄張りで静かに暮らしていたが、一時期、生き物を創るのが大流行りしたことがあった。


 俺様も自分に似せた4足歩行の「か弱き者」をいくつか創った。


 隣の縄張りの奴は、俺様に対抗して2足歩行の「か弱き者」を創った。そいつは面倒くさがって自分の姿は光の塊のままなクセに、たった一つの生き物を創るのに拘りぬいてかなりの工夫を凝らした変わった奴だ。


 創生ブームが去った後、俺様たちが作った「か弱き者」たちは勝手に増えたり減ったりしながら、俺様たちの縄張りを自由に行き来するようになった。


 隣のやつが拘りぬいて創った「か弱き者」はいつの間にか増えに増えて、ヒトという種族名を与えられた。

 ヒトは自分たちの縄張り争いで俺様たちの縄張りを汚すようになったので、そういう時は怒りの鉄槌を下すようになった。


 ヒトは俺様たちのことを怖がって「神獣」と呼ぶようになった。


 時間が経つと、ヒトは個々の「神獣」の縄張りと特性を把握するようになった。


 そして「神獣」の縄張りごとに「国」を形成した。


 俺様たちの多くは自分の縄張りにある「国」の中で一番居心地のいい家に住むようになった。


 そしたら、ヒトは、その家の家主を「王」と呼ぶようになった。



 あれからどのくらい経っただろう?



 今では殆どの縄張りの「王」が、次の王になる者の妃を「神獣」が気に入るかどうかで決める。


 「神獣」が嫌う者は、縄張りを荒らす者の匂いがするから、かなり正確にダメな存在を選別できるんだ。


 俺様がやることは、散歩中に臭い奴がいたら唸るだけだ。


 後は自分たちでどうにかする。



 妃の候補が沢山いるときは、ある程度お妃教育が進んだ頃合いに、候補を並べて一斉にお供え物をくれる。

 そして「王」は、俺様が選んだお供え物をくれた子を王の子の妃にする。


 俺様は優しい「神獣」だから、臭くない範囲で、王の子が好きな子のお供え物を選んでやるようにしている。

 俺様たちには「か弱き者」の気持ちが分かるんだ。


 王の子に好きな子がいない時は、一番いい匂いの子を選ぶ。



 当代の王の子は、ランパードという。


 ランパードは、ドナテラが好きだった。


 ドナテラは優しい子だ。

 いい匂いがした。


 ヒト基準では優秀じゃないらしいが、ランパードが好きならそれでいいじゃないか?



 でも、俺様自身は、ドナテラじゃなくて、ヴィクトリアがお気に入りだ。


 俺様は、ジレンマってやつを抱えた。



 お妃に選ばれなかった子は城に遊びに来なくなる。

 俺様はもっとヴィクトリアと遊びたい。



「わたくしに会いたいなら、ヒューが遊びに来ればいい。違うか?」


 ジレンマは、すぐに解決した。

 俺様は、ランパードの為にドナテラのお供え物を選んだ。



 ヴィクトリアは、初めて見るタイプの精神だった。


 心の中、我慢だらけだった。

 やりたいことを我慢しているのではない。


 心を持つことを我慢しているタイプだ。


 ヒトは、隣のやつが俺様たち「神獣」の心の動きを模して創った生き物だから、よく心が動くことが特徴なのに、ぐっと堪えて心を動かさないように訓練しているおかしなヒトだった。



 俺様たち「神獣」は、縄張り意識が強く、他の「神獣」の縄張りに入らないことが最大の友好だ。


 長く生きてるから、なんだかんだで知り合いは多いが、親しくはならない。


 隣のやつは寂しがりやだったから、俺様たちの本能である「縄張り」の意識の働かない「か弱き者」と群れたかったのかもしれない。

 だから、見た目は兎も角、心の動きは念入りに俺様たちを模して、互いに共感できるように創った。


 心を押し殺すという創造主の意図に真っ向から対立するヴィクトリアに興味が湧いた。


 

 ヴィクトリアの為に人語を覚えて、対話を試みるようになった。


 ヴィクトリアの心を動かしたくて、色々聞き出した。


 ヴィクトリアが最初に俺様に望んだのは、「ナデナデしたい」だった。


 ふてぇやろうだ。



 でも、俺様も「ナデナデ」ってやつを経験してみたかったから、俺様は実体化してヴィクトリアに「ナデナデ」されてやった。


 心地よかった。


 この時、霊体として透けて見えるだけだった俺様が実体化したことに皆が驚いた。


 大騒ぎになったらしい。


 ヴィクトリアは実体化した俺様といろんなことをした。


 俺様が気に入ったのは「コショコショ」、「ブラッシング」、「お散歩」、そして「まくら」だ。


 俺様は人前では寝ないが、ヴィクトリアが眠くなったときに傍にいると、かなりの確率で俺様にしがみついて寝てしまう。

 どうしようもなく、ふてぇやろうだが、俺様、そうやってヴィクトリアに「まくら」にされるの嫌いじゃない。


 足が遅えから、背中に乗せてやることもあった。


 ヴィクトリアは、城に来るとお妃教育を最速で終わらせて、俺様と遊びたがった。俺様もヴィクトリアがお妃教育を終えるのを待って、一緒に遊ぶのを楽しみにしていた。


 そうやって、俺様は初めて「か弱き者」の友達ができた。



 隣のやつがやりたかったのは、こういうことだったんだろう。



 隣のやつはヒトを創った後、しばらくニコニコ眺めてたけど、そのうち眺めているだけじゃ物足りなくなって、自分もヒトの姿になって、ヒトと暮らし始めた。


 まあ、そういうことしそうな変わったやつだった。



 俺様にも人化の方法を教えてくれた。


 でも、二足歩行は安定しないから、俺様はあんまり好きじゃない。


 隣の隣の縄張りのネコのやつも俺様と同意見で、すぐに四足歩行に戻った。


 ヒトの姿をやめなかったのは隣のやつだけだった。


 きっと、それが、あいつの形だったんだ。



 あいつはしばらくヒトに紛れて生活した後、自分だけ死なないのが寂しくなって、本物のヒトになる為に「神獣」をやめた。



 コレには流石に驚いて、ネコのやつと一緒に止めた。


 でも、あいつは全く聞いてくれなくて、俺様、泣いた。


 ネコのやつも泣いた。


 そしたら、一世代に一人だけあいつの気配を纏ったヒトを作るようにしてくれた。


 あいつの子孫が分かるマークだ。


 俺様はたまに寂しくなったら、あいつの気配を探して、眺めるようになった。


 しばらくすると、あいつの気配、俺様の縄張りで暮らすことが多くなった。


 あいつの気配は、「神獣」の気配だから、俺様とネコのやつ以外の縄張りでは、「神獣」たちから縄張り争いを仕掛けられて酷い目に会うんだと思う。


 俺様はあいつの気配とは縄張り争いしないから、きっと居心地がいいだろう。


 ネコのやつは、俺様をさびしんぼうだと笑うが、俺様は笑われてもあいつの気配が俺様の縄張りにある方が嬉しいから、気にしない。


 兎も角も、「心の交流」をヒトに求めたあいつの創生意図と真逆に暮すヴィクトリアと知り合ったことで、逆にあいつがやりたかったことを理解できたのは、奇妙だ。


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