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別エンディング、神獣ヒューの決意

「ヒュー。早く元気になって」


 ヴィクトリアの声がしたから、ドナテラの宝物の外に出た。


 笑顔のヴィクトリアがいた。


 俺様の姿を見て、ちょっと心配になるぐらい心がバクバク動いているヴィクトリアがいた。


 俺様に会えたことが嬉しくて涙が止まらないヴィクトリアだ。


 俺様も嬉しくて、笑顔になった。



 でも、俺様、すぐに真っ青になった。


 ヴィクトリアの心、ズタズタで、壊れる手前でギリギリ耐えている状態だった。



「ヴィー。何があったの? どうして心がこんなになってる?」


「ヒュー。ごめんなさい。ごめんなさい。わたくしがドナテラの様子を見に行ってとお願いしたことで、貴方が消滅寸前の危機に陥る羽目にあったのですよね? 本当にごめんなさい。本当に、本当に、ごめんなさい」


 40年。

 それが俺様が寝ていた時間だった。


 その間にヴィクトリアの話し方、俺様と同じじゃなくなってた。


 それだけじゃない。


 目が覚めたら、ヴィクトリアには、夫がいて、子がいて、孫がいた。


 ヴィクトリアの夫は、シドニアスの子孫だった。



「満身創痍のヒューが姿を消す前にケイレブの前に現れて『ヴィクトリアを頼む』と、わたくしを託したと聞きました」


 ヴィクトリアの心を壊れる寸前まで傷つけたのは俺様だった。


 俺様、知らなかった。

 ヴィクトリアが俺様を愛していたこと。


 俺様が他の男にヴィクトリアを託して姿を消したと知ったヴィクトリアは絶望して、心がボロボロになった。



 俺様、予想できていなかった。

 ヴィクトリアのお願いが原因で俺様が消滅寸前まで追い込まれたことで、ヴィクトリアは自分を責めて、ボロボロの心が更にズタズタになった。


 ヴィクトリア、義弟が恋しいとか、ドナテラが心配とか、そういう悲しみと桁違いに傷ついてしまった。



 俺様、気付いていなかった。

 俺様もヴィクトリアに自分の気配を分け与えて、俺様の伴侶のマーキングをしてしまっていたこと。


 ヒトであるヴィクトリアが、ドナテラの宝物の中で寝ていた俺様の気配を感じることができるほどにしっかりと。


 だからヴィクトリア、俺様の気配を感じるのに手が届かない悲しい状態で暮らさなければならなかった。



 俺様とヴィクトリア、相思相愛だったのに、俺様が欲張って、縄張り争いに負けて、寝てたから、全て台無しになった。


 シドニアスの子孫は、俺様の頼み通り、まごころと誠意でヴィクトリアに尽くし続けてくれた。


 そいつは、はじめ、俺様とヴィクトリアの関係を最初に正しく理解して身を引いていたが、俺様が眠りについたから、俺様の代わりにヴィクトリアのことを大事に大事に愛してくれてた。


 俺様、くやしくて仕方がなかったけど、俺様そいつのこと殺せなかった。


 そいつが老衰で死ぬまでぐっとこらえてた。

 何万年も生きてきた中のたった数十年だったけど、凄く長く感じた。


 ヴィクトリアとそいつの間に子供がいっぱいいた。

 それも、凄くくやしかった。


 次の「王」になる予定のヴィクトリアの孫は、ミーナの子供とも掛け合わせて、シドとヴィクトリアとミーナとアーサーの子孫だ。


 俺様が目を覚ました時に寂しくないように工夫してくれたらしい。

 俺様、嬉しくなかったけど、礼は言った。


 ミーナも俺様の気持ちが分かったらしく、ミーナにしては優しく慰めてくれた。



 でも、俺様、ヴィクトリアの前でメソメソできなくなるほど、ヴィクトリアはもっと傷ついていた。



「ヴィー。お願い。教えて。どうしてこんなに悲しい?」


「悲しい? わたくし、生きている間に貴方に会えて、こんなに嬉しいことはないわ」


 ヴィクトリア、確かに喜んでた。

 でも、心が不安定で、消滅する手前なのは変わらなかった。


 夫を看取った後のヴィクトリアは、夜は「まくら」を求めて俺様の寝床に潜り込むようになった。

 毎晩、俺様のモフモフでヴィクトリアを包んで、「愛してるよ」と伝え続けた。



 それでもヴィクトリアは、よく俺様がいなくなる夢を見て、泣いた。


 トラウマってやつだ。

 ヴィクトリアは、俺様の傍にいるのに、俺様がいなくなることを恐れて泣くようになった。


 俺様、その度に、「ずっとそばにいるよ」と宥めて温めた。



 ヴィクトリアが夜泣きしなくなったころ、ヴィクトリアは俺様と再婚した。

 でも、その頃にはヴィクトリア、ヒトとしての命を終える寸前だった。


 俺様が神力を分け与えていたから、他のヒトよりは随分長生きしたと思う。

 ヴィクトリアが弱るにつれて、今度は俺様が夜泣きするようになった。


 交代で泣いてばかりのダメな夫婦だ。



 そんな頃、ジュリがエントを派遣して、ヴィクトリアを「聖霊」にするように勧めてきた。


 ジュリは、シドとは反対側の隣の縄張りのやつだ。


 じわじわ成長するのが好きで、獣型ではなく、樹木型をとっている。


 動いたことがないから、かなりでっかくなって、ヒトからは「世界樹」と呼ばれている。


 俺様が寝ている間、縄張りを他の「神獣」に乗っ取られないように、自分の縄張りにして守ってくれたいい奴だ。


 ミーナの夫アーサーは、約束通りランパードの「国」を乗っ取った後、ジュリの縄張りの「国」も征服して、全てを1つの「国」にした後、「王」になった。


 ジュリは、ヒトのように樹木を燃やしたり、伐採したりする「か弱き者」は好みではない。

 ジュリの根っこの一部を削って家を作った「王」を手際よくぶっ倒し、「首都」をジュリから遠ざけたアーサーを歓迎した。



 俺様、目を覚ました後、ジュリに会いに行って、縄張りを分けた。


 ジュリは、アーサーが元々のジュリの縄張りからヒトを追い払ったことを喜んでいたから、ジュリの縄張りだった土地にはヒトが入らないように、元の俺様の縄張りはジュリの縄張りのままにした。


 元々俺様の縄張りの「王」だった一族は、アーサーの一族に滅ぼされてた。

 王の子ランパードは、その原因を作ったバカ王子、婚約者のドナテラは王国を攪乱した悪女として歴史に名を残すようになってしまった。


 俺様、二人の為に新しい見た目のヒト型の魂の容器を作って、二人に新しい人生をプレゼントした。


 ヴィクトリアを喜ばせるためだった。


 ヴィクトリアにとってのランパードとドナテラは、俺様にとってのシド、ミーナ、ジュリと同じだ。幼馴染ってやつだ。


 新しい姿のランパードとドナテラは、「王」や「妃」ではなかったけれど、一緒に暮らせれば、幸せのようだった。


 新しいジュリの縄張りの「国」の「王」は、アーサーの弟の子孫になった。

 俺様はヒトの「王」なんて誰でもいいけど、ジュリはジュリの嫌がることをしないアーサーの弟の子孫を気に入ったようだった。



 ん?

 何の話してたんだっけ?


 ヴィクトリアの死が迫ってきたときに、ジュリがエントを派遣した話だったな……


 ジュリは縄張り意識が猛烈に強くて、絶対に動かないやつだし、不干渉主義だ。


 俺様の新しい縄張りは、シドの縄張りとミーナの縄張りだった土地で、少し距離がある。

 しばらく会うこともないと思っていたのに、エントが来たから、俺様、ビックリした。


 エントは、歩く樹木で、ヒトから「精霊」と呼ばれている。

 「聖霊」は、ジュリがつくった「か弱き者」だ。


 シドは、俺様たちの心の動きを模してヒトを作ったが、ジュリは「か弱き者」でも俺様たちのように、自分がなりたい形になれるように「精霊」を作った。


 のんびり屋のジュリは自分の神気を花粉に乗せて、縄張り中に薄く広く発散して「精霊」をまったり育てていた。

 成長が遅い代わりに老いて死ぬことがない。


 「精霊」は、ジュリが自分の花粉に帯びさせた神気を浴び続けることで、徐々に大きくなって、意思をもったり、形を変えることが出来るようになる。



 ジュリは、自分の作った「か弱き者」が好きな形をとれるようにしてやったのに、ジュリの「精霊」たちは、親であるジュリみたいな形になることを望む者が多かったし、ジュリの神力を浴びるためにジュリの縄張りを離れる者は少なかった。


 皮肉だ。


 エントも形は樹木型だが、何万年もジュリの神気を浴びて、歩けるようになった面白い個体だ。


 その面白い個体が、ジュリに頼まれて俺様にヴィクトリアを「精霊」化する方法を教えに来たというから、もっとびっくりした。



 ヴィクトリアは、ランパードとドナテラの為にヒト型の容器を作って、魂を移し替えた時、自分も同じ様に延命して欲しいとは言わなかった。


 だから、寿命で死にたいのだと思っていた。


 ヴィクトリアが死んだら、俺様は寂しくて泣いてばかりになるかもしれないけれど、ヴィクトリアを心の痛みから解放してやるために、ヒトの命数に従って死なせてやるのが最善なのだと自分に言い聞かせていたとこだった。


 でも、エントが俺様たちを訪ねてきたとき、ヴィクトリアは「精霊」になって、ずっと俺様と一緒に生きていきたいと願った。


 ずっと心に痛みを抱えたままになったとしても、俺様と一緒に生きていきたいと言ってくれた。


 凄く嬉しかった。



 それで、俺様、ヴィクトリアの魂を身体から引っこ抜いて、精霊化した。

 

 身体の方は、ちゃんとヒトの習慣に従って、葬式をして、お墓に埋葬した。


 精霊化した魂は、俺様達の原初の姿と同じで、プカプカ浮かぶ光の塊だ。


 俺様、毎日、せっせと自分の神力を注ぎこんで、大事に大事にヴィクトリアを育てた。

 俺様とヴィクトリア、形が違ってもちゃんと会話ができたし、一緒にいられれば幸せだった。


 数百年かけて、ヴィクトリアはようやくヒト型をとれるようになった。

 のんびり屋のジュリが作った「か弱き者」だけに、俺様が全身全霊で神力を注いでも育つのが遅かった。


 ヴィクトリアがヒト型をとれるようになってから、俺様とヴィクトリア、しばらくヒト型で活動した。


 夜伽もしたぞ。


 子供も沢山できた。


 せっせと世話をするのはヴィクトリアで、俺様は躾だけ。

 幸せだ。


 ヴィクトリア、形を変える練習を続けて、イヌ型も取れるようになった。


 イヌ型の子供も沢山できた。


 どんな形でも子供は全部かわいいと知った。


 

 それから、更に数千年経った頃、「神獣」の間で、第2次創生ブームが起こった。

 「人獣」の創造ブームだ。


 シドが作ったヒトは、じわじわと「神獣」達の心に沁み込んでいった。

 俺様たちと同じ心の動きをするのに縄張り争いしたくならない存在はとても重宝された。


 ヒトと「共感」するために、それぞれの「神獣」の形に似せたヒトを作るブームが来るのは必然のように思えた。



 俺様とヴィクトリアは、コボルト族とケットシー族を作った。

 コボルト族は、俺様みたいなイヌ型の特徴を持つヒトだ。

 ケットシー族は、ミーナみたいなネコ型の特徴を持つヒトだ。


 龍型の「神獣」ドラゴの呼びかけで、「人獣」は、ヒトをベース遺伝子として交配可能にしているから、「人獣」同士が勝手に交配して、「か弱き者」の種類が爆増した。


 おもしろい世界になった。


 俺様、いろんな姿でヴィクトリアと子供作って、育てるのが人生の楽しみになった。


 ヴィクトリアの心も回復して、ちゃんとヒトっぽく動くようになった。


 俺様、ヴィクトリアがヒトらしく、思うままに喜んだり、悲しんだりできるようにずっと大事に守っていく所存だ。



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