死地への赴き
試験的な運用。そう聞かされた。
視軸の先には純白のシーツの海に寝転がる少女がいた。シーツの隙間からは数本の機械へと繋がるチューブが生えている。安らかな寝顔だ。KARMAウィルスに侵され植物状態となった人々は一様に安らかな眠りについているのだそうだ。
先程、手渡された資料に目を通す。この少女。相原咲は植物状態になる前…。不幸の只中にいた。年齢は17歳。大人とも子供とも見られてしまう年齢だ。
「百聞は一見に如かずと云うだろう?早く行くとしよう。」
不意に背後から声が聞こえる。声の持ち主は先日、紹介されたペイシェントである。名を音無静寂と云う。彼女の咎は【正義】。要は物理攻撃に特化した異能力を持っていると云う事になる。
先日の記憶が脳裏を過ぎる。倉木英知は私に告げた。
「貴方はコレから強大な咎を持つ様々なペイシェント達に出逢う事になるのでしょう。人の精神世界へと侵入するのには、彼女を連れて行く事が最善かと思われます。きっと貴方が行く先を照らしてくれますよ…。」
そう云って視線を移した先に綺麗な女性がいた。黒髪のショートカット。色素の薄い瞳。モデルの様なスタイル。しかし…。何故だろうか…。私の本能が恐怖で震える。
「コレから宜しくな。局長。俺の咎を上手く扱ってくれよ…。」
その視線は深く鋭く、ソレでも私を見てはいなかったのだった。