胸が張り裂ける程の想い
伝えたい事があったんだ…。
遺体から鳴り響く音に二人は反応した。左右に開かれた肋骨の中央にある心臓からドクンドクンと音が木霊する。真紅の霧が辺りに立ち込め、ギギギと心臓が切り裂かれていく。心臓の内側から慟哭の様な叫びが聞こえてきたのだった。
「文字通り…。胸が張り裂けそうな想いがあるのでしょう…。お姉様の心伝図の波形は【堅固】を示していました。防御する事に特化した咎…。静寂さんとは真逆の能力です。相性は良くも悪くもある。本当に、御一人で大丈夫なのですか?第二部隊隊長の【長神蒼】さんが隊員を貸してやっても良いと仰っていましたよ。」
音無静寂の顔は微かに笑顔になる。
「彼奴、口は悪いが優しい奴なんだ…。」
「何処かの誰かさんと一緒じゃないですか…。」
倉木は音無に向かい微笑んだ。
「あぁ?何が言いてぇんだ?」
「いや…。何も…。」
部屋には音無の姉の慟哭が鳴り響いている。心臓は左右に割れ、迷宮への扉が開かれる。微かに薬品の香りがした。
「御武運を…。」
「あぁ。直ぐに戻る。」
振り返る事無く、音無は迷宮へと足を踏み入れたのだった…。




