迷宮化
いずれ訪れる別れだとしても…。
「音無静寂さん。駆逐対象となってしまった貴女のお姉様の魂を救えるのは貴女だけなんです。」
民族衣装を纏う倉木と名乗る人物は、そう云った。俺の前には姉の遺体が横たわっている。胸部の肋骨が左右に広がり、中央には心臓の形を模した扉があった。
「お姉様は先日、亡くなられ、迷宮化しました。なので猶予は後、六日間。ソレを過ぎてしまえば扉から、異形が溢れ出してくる事でしょう。駆逐隊に任せようかとも考えたのですが…。」
倉木は、暫し沈黙した。
「貴女に伝えたい事があるのではと思いまして…。お姉様は貴女の事を本当に大切にしていらしたので…。」
「姉貴が?彼奴は俺を避けていたんですよ。俺の事が嫌いだった筈です。ここ数年、会話した記憶すら無い。」
「あの事を悔やんでおられました。」
ヒクリと顔の筋肉が動く。
「姉貴が悪い訳では無いんですよ。何方かと云えば姉の後を勝手に付いていった俺が悪かったんです。」
姉の遺体に眼を向ける。生気の抜けた蒼白い皮膚が視界に入った。
「溝呂木舞空…。」
またもやヒクリと顔の筋肉が痙攣する。
「音無静寂さん。貴女は彼に拉致監禁されていたのですよね?半年もの間。」
ギギギッと姉の遺体が微かに揺れた。
迷宮化。
強力な咎に耐えられずに植物状態となった人間が死ぬと、その遺体が迷宮の入口となる。死後、七日後迄に迷宮を創り出している核を破壊しなければ、迷宮を彷徨う異形が現世に侵略してくる。
迷宮を創り出している核は…。
その人間の深層心理が産み出している。
迷宮に認められたのであれば、咎の性能は下がるモノの心装と呼ばれる咎の能力を宿した武具、防具、道具を入手出来る。




