暴力
罪は罪だ…。
鬼の異形は耳元まで裂けた口から、鋭い牙を覗かせ、吼えた。
「久し振りだな…。死んでも、その子を護ってるのか?真逆とは思うが…。犯した罪を忘れてるんじゃないだろうな…。償いか?」
音無は【断ち切り】を両の手から右手に持ち替え、勢いの儘に振るった。紅黒い刀身が鬼の異形の左腕部へと食い込む。ミチミチと音を立て左腕は千切れ、【断ち切り】は、胸部へと達した。
「俺さ…。考えるの苦手なんだわ。正義も大義も意味なんか解らねぇ。だけど…。一つだけ解っている事がある。争いやら何やらには勝たないと意味が無いんだ。勝利してこそ此方の我儘が押し通る。正義無い力は暴力って云うだろ?でもよ。正義が有ろうが無かろうが力で屈服させるのなら、ソレは暴力と何ら変わりゃしねぇ。ソレでも、無力よりは幾らかはマシだとも思うんだよ。そうだろ?だって、力が無いと護りたいモノも護れねぇからな。」
音無は食い込んだ儘の【断ち切り】に、更なる力を込める。鬼の異形は叫び、足掻き逃れ様と試みたのだが、【断ち切り】は徐々に徐々に鬼の異形の胸部を切り離そうとしていた。
車椅子の少女は呟く。
「ねぇ。みんな…。救けて…。」
その言葉が唇から告げられると、五体の大きな鬼の異形が黒い霧から姿を現した。ソレに続き、腹の膨れた小さい異形が数え切れない程の数で湧き出してくる。
音無静寂は溜息を吐き…。
「どんな理由があれ、罪は罪…。死刑を執行する…。」
と云った。




