目醒め
夢も現実も…。
俺を責め立てた…。
俺が意識を取り戻したのは二日後の事であった。眼を醒まして、直ぐに辺りを見渡し、第六部隊の隊員達、そして、あの青い瞳の少女を探した。だが…。視界に入ったのは、見慣れない器具と真っ白な壁。そして、耳に聞こえる、けたたましい機械音。
思考を埋め尽くす夢の残骸。厭な夢を視ていた。ソレだけは理解出来た…。然し…。何処から夢で何処迄が現実なのかが解らない…。過去と未来がリンクしている様な感覚に包まれていた。いや、あの夢は俺の過去ともリンクしている。そうだ。忘れようとしても忘れられない記憶がある。俺はある男に…。
思考を遮ったのは聞き慣れた声だった。
「どういう事だ?貴様が率いていたのに第六部隊が壊滅だと?それで何故…。貴様は無様に無傷で生き残ってるんだ?」
声の持ち主は第二部隊隊長の【長神蒼】だった…。腰まで伸びた黒髪が光沢を帯びて揺れている。大きな丸眼鏡の奥から殺気を孕んだ視線が覗いていた。彼女はそんな鋭い目付きで俺を睨む。
「まさかとは思うが…。貴様、部下が殺られていくのを、ただ黙って見ていたのか?」
「…。」
言い返せなかった。隊員達が眼前で死にゆくのを視ていた事も、身動き一つ出来ずに、助けられなかった事も事実だからだ。
「正義を背負う第六部隊隊長…。情け無ぇなぁ…。貴様が掲げる正義とは、その程度のモノだったって事か?部下すら護れない貴様の正義とは何だ?答えろ。音無。」
正義とは何だ?
KARMAウィルスに感染し、怪物となった人間を大義名分で駆逐する事なのか?
身近にいた仲間さえ護れなかった俺が【救済】する事を盾にして元は人間だった生命を刈る事なのか?
命令?責務?使命?
頭に過るのは、それとなく良い様に聞こえる言葉だ…。あの夢が、鬼の異形の記憶なら…。理花と云う女性は間違った選択をした…。ソレは確かだ。
だが…。
鬼の異形は…。
最期まで…。
子を護ろうとしていた…。
違う。そうじゃない。
アレは…。
鬼の異形の能力では無かった。
だとしたら…。アレは…。
「返答無しか…。心底、呆れたよ。音無静寂。街中にあった防犯カメラの映像では、貴様には過失が無い事だけは解った。けどな本日付けを持って隊長の任を解く。残るのも、出ていくのも自由にすると良い。」
俺は自らの両の手に視線を送った。
傷だらけの両の手が…。
瞳に映っただけだった…。




