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Melancholic-Heaven  作者: 倉木英知
第1章 音無静寂と相原咲
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夢を視た…。


 息子を返して…。


 音無静寂と相原咲は夢を視ていた。


 夢と称してはいるが正確には、薬師やくし理花りかと云う名の女性の記憶である。でもソレを音無と相原が知る由もない…。


 KARMAウィルスが世界に蔓延する前…。ある幸福な一家が惨劇の渦に呑み込まれてしまう。


 当時、薬師やくし理花りかには慎耶しんやと云う夫がいた。五人の子宝に恵まれ幸せな日々を過ごしていたのである。裕福では無かったモノの、家族の其々が笑顔で幸せに満ち満ちていた。特に末子まっしの息子、太気たいきは皆に可愛がられて育っていた。


 太気は慎耶の母方、フィンランド系の血を色濃く受け継いでおり、青い瞳の天使の様な子供で、太気が微笑めば皆が微笑み、太気が哀しめば皆が哀しむ。薬師家族にとって、太気はムードメイカーであり、掛け替えの無い宝物だった…。


 然し…。

 或日を境に幸せな家族は壊れた。太気が行方不明となってしまったからだ。理花も慎耶も上の兄妹達も懸命に太気の行方を探した。幾日も幾日も太気の帰りを待ち侘びる日々。家族は日に日に衰え、痩せていった。特に母親の理花の衰弱は激しかったのである。


 だが…。太気が無事に生きて家族の元へと帰ってくる事は無かった。太気が行方不明になってから一ヶ月後、家族の元へと帰ってきたのは、右腕だけだったのだ。

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