でも…。ソレは…。
異形の方も…。
元は人間だったんですよね?
「大丈夫か?」
と眼の前の人は、そう云った。ショートカットの綺麗な女性だった。でも私の心は先程の光景にザワザワとしている。あの大きな鬼の異形は、もしかしたら私を…。
「怪我は無いか?」
「はい。大丈夫です。」
「君はどうして…。木に縛り付けられてるんだ?何があった?」
眼の前の人は心配そうに私を見ている。
「…。」
私は言葉に詰まった。何を伝えれば良いのかが解らなかったからだ。
「ユックリで良い…。君に何があったのか…。話してくれないか?」
その女性の瞳には慈愛が満ちていたかの様に感じられた。だから私は、ありのまま伝える事にした。私が両親に贄として教祖に捧げられた事。そして…。その教祖は私を神の贄として、この木に縛り付けた事。
総てを…。
「もしかしたら…。あの鬼の様な異形の方は、そんな私を救けようとしてくれていたのだと思います。優しい声だったんです…。」
私がそう云うと…。
眼の前の女性は少しだけ哀しそうな表情になった。そして…。言葉を並べる。
「異形となった人間は欲に呑まれているんだ…。激しい感情に心を支配され、肉体をも変化させてしまっているんだよ…。だから…。」
「でも…。異形の方も元は人間だったのですよね?人間にも善行を積む人間もいれば悪行を重ねる人間もいる…。だとしたら異形の方達も…。異形だから悪だと一括りにしても良いのでしょうか?」
「ソレは…。」
眼の前の女性は返答に困っている。
「すいません。救けてもらったのに…。」
「いや。気にしなくて良いよ…。」
大きな鬼の異形へと瞳を向ける。
耳元まで裂けた口を開いては閉め、閉めては開く。ソレは…。何かを伝えようとしているかに見えた…。大きな鬼の異形は瞳を見開く、その視線の先は私達を見てはいなかった…。




