数百の異形
しーっ。静かに…。
「群がっているとは聞いていたが…。此れ程までの数だとは…。数百の異形…。完全に想定外だ…。」
音無静寂は市街地に着くと、そう言葉を発する。市街地の中央に小さな異形が群がっているのが遠目からでも確認出来た。小さな異形の姿形は、一様に似ている。痩せ衰え腹部が異常に膨らんでいた…。眼は血走り、口元からは涎が溢れ出し、その両の手は焔で包まれている。その中で一際、眼を引く姿があった。耳元まで口が裂けた大きな鬼の異形。
市街地の中心部。大きな木を囲む様に異形は群がっている。
「隊長…。アレは…。」
望遠鏡で辺りを偵察していた隊員が大きな木の方へと指を指して云う。
「ん?」
音無静寂は隊員から望遠鏡を奪い、覗き込んだ。視界に映り込んだのは大人にも子供にも見える年齢の女の子。その女の子は木に縛り付けられている。
「何で…。女の子が木に縛り付けられているんだ?」
音無静寂は、そう言葉を置いた瞬間…。異形の群れに向かい、走り始めていた。隊員達も音無に続き、群れへと向かう。
小さな異形の群れは、そんな音無静寂に気付くと嗚咽の様な叫び声を上げ、襲いかかろうとする。
「しーっ。静かに…。」
音無静寂は右の人差し指を唇に添えた。




