天野桐人
私は御伽噺の英雄にはなれない。
ソレでも貴方の心を救いたいとは思う。
天野桐人は相原咲のカルテに意識を集中させていた。連なる文字は言葉と成り、言葉は重なりイメージを産み出していく。産み出されたイメージは統計された情報により映像となり、映像は脳内で再生され相原咲の人生を構築していったのだった。
相原咲の両親は、新興宗教【胎天地心教】に狂信していた。胎天地心教とは、端から見ても異質な宗教である。天国にも地獄にも時間と云う概念は存在しない、過去に死んだ者も未来で死ぬ者も等しく其処に存在する。だからこそ現世で徳を積まなくてはならない。死後、何れ程の徳を積んだかによって来世での心の在り方が決まるのだと…。輪廻転生を繰り返し徳を積み重ね、最終的に神へと生まれ変わる事を指標とするのだと…。
然し、そんな教えを説く胎天地心教の教祖は、この世界も死後の世界の一つなのだとも説いている。死後の世界は六つに別れていて、その徳の積み重ねで来世での生きる世界が決定される。私達が生きる、此の世界は六つある死後の世界の一つ。人道と呼ばれる。善悪の相俟った世界。美しさも醜くさも混然一体と成った世界。だからこそ…。此の世界では善悪の区別を学べ、他の世界に比べると、徳を積み重ねる事が容易であるのだそうだ…。
天野桐人。
干渉に特化した【知識】の【咎】…。
咎名。
【システム・オブ・ア・ダウン】
ステージ0。
意識を失っている人の精神世界への侵入が可能。精神世界を到達すると、その人を支配する事が可能。
天野桐人は咎が覚醒した時から、自分の記憶に違和感を感じながら過ごしている。人を指揮する能力は高いのだが、戦闘能力は皆無。