幸不幸の天秤
鬼一口
世の中に降り注がれる幸不幸の質量は一定なのだろう。それも、【個】にではなく【全】に対してだ…。誰かが幸福に成れば誰かが不幸と成る。世の中は常に、そうして均衡が保たれている。と云う事は…。誰かを幸福にする事は誰かを不幸にする事と云う事になるのだろう。
教祖は私に云った。
「贄になりなさい。そうすれば神は人々を救ってくれるのです。」
『本当にそうなのだろうか?』
確かに、この法則に従うのなら私が不幸になる事で誰かが幸福になるのだろう。然し、ソレでは幸不幸の均衡は保たれない。
所詮、私一人の命ならば、誰か一人の命を救う事だけしか出来ないのではないのだろうか…。
でも、ソレでも良いのかも知れないと私は思う。本来の神様の教えは、そう云ったモノだ…。私一人の命で救える命があるのなら…。
そうして私は…。
贄に成る事を決めた。
私は現在、街中にある大木に縄で貼り付けにされている。 視線の先には大きな鬼の様な怪物がいた。醜悪な顔だ。耳元まで口が裂けている。鬼の形相とは、アレを云うに違いない…。
ソレは…。
私の左腕を掴むと…。
大きな口を開いて…。