羽化
最後の記憶は…。いや、正確に表現するのであれば、これは記憶と云うよりは映像だ。可愛らしい女の子が私の掌を握り、瞳から涙を流している…。そんな映像だ。其処に私の感情は無い様に思える。まるで無声映画を見ている様な気持ちしか持ちえてはいない。
何故、泣いているのか。映像として脳内に浮かぶ、この女の子は誰なのか…。いや…。そもそも【私】は誰なのだろう。
思考を妨げる様に頭痛がする。ズキズキ。ズキズキと脳内が締め付けられる感覚に支配されている。重い目蓋を開けようとしても酷い頭痛は、ソレを拒んでいる。深く深呼吸をしようとするのだが、呼吸をする事は出来なかった。しかし息苦しくも無い。
呼吸は出来ないのだが、何か腐敗し朽ちていく様な匂いが私の感覚を刺激する。そしてソレを懐かしく感じている私がいた。
意識を徐々に肉体へと移す。コポコポと音が響いている様な気がする。どうやら私は液体に浸されているみたいだ…。
息苦しく無い理由が少しだけ解った気がした。私の肉体から生えている鎖の様な装置が肉体へと酸素を送り込んでいる様だ。
徐々に徐々に重い目蓋を開けていく。視界には細かい粒で構成された霧の様に乳白色の風景が映る。ソレ以外には何も無い。
【ごめんなさい…。】
何か聞き覚えのある声がする。
【ごめんなさい…。】
誰に謝っているのだろう?
その声に混じり…。
とても美しい声が響き渡る。
《ヨウコソ オイデクダサイマシタ》
《アナタハ エラバレタノデス》
《サァ トキハナチナサイ》
プツリと何かが弾けた様な音が木霊して、乳白色の液体が勢いよく流れ出す。
私の肉体も、その流れに呑み込まれていく。
グチャり…。
厭な音とともに…。
私は世界へと投げ出された。
また美しい声が響く…。
《アナタガ ドコマデ アラガエルノカ…。》
《コレハ アナタヘノ ギフト…。》
言葉が終わるのと同時に…。
脳内に言葉が浮かび上がる。
【ロストスキル【××】、【××】を入手しました。】
その言葉が心に刻まれると…。
私の意識は暗転していったのだった。