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悪逆令嬢アリスの蛮行  作者: めんたいこ太郎
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第1話 私はここにいたいですわ

 世界で最新VRゲーム『エンゲージ・ドラグーン』のテスター達が同時に行方不明になってから1年。


 未だに失踪の謎は解けないままである。何故なら彼らはゲームの中に取り込まれてしまったのだった。


 この物語はそんなテスターの1人だった17歳の少女が、自分の願いを叶える為に戦い続ける話である。




 ここは、西の大国『ウエストビュー』。ダンジョンや魔物の森など冒険者にとって生活に不可欠な要素がてんこ盛りである冒険者の国である。


 そんな国に深紅のドレスを身に纏った少女と巨大な戦斧を背負った男が歩いていた。他の場所だと悪目立ちしそうな2人であるが、ここは冒険者の国。自分の名前を売る為に必要以上に派手な格好をした者が沢山いる為誰も気にしていない。


「シンタロウ!あれは何ですの?」


「ああ、あれはカジノだな。ルーレットやポーカーでギャンブルする所だ。」


「なんと、あれがカジノなのですね。限定ジャンケンや鉄骨渡りなど私もやってみたいですわ。」


「お嬢、ギャンブルの知識が偏ってるぞ。」

 

 お嬢と呼ばれたドレスの少女は目に映るものが全て輝いて見えるようで、目をキラキラさせながら男に質問攻めをする。


「この世界に来て1年になりますけど、まだまだ知らないものが多いですわ。さあ、親太郎。どれから周りましょうか?」


「いや、お嬢。先ずは情報収集が先だ。目的を果たしてから観光しよう。」


「ぶーーー。はーーーい。ぐへっ!」


 少女は頬を膨らませ不満気な顔で前を歩いて行く。目もつぶったまま歩いてしまった為、足をつまづかせて前へと転んでしまった。


「君、大丈夫かい?」


 そんな彼女に茶髪の好青年が手を差し伸べる。その背中には槍が背負われており、どうやら冒険者のようだ。


「ありがとうございます。わたくしよく転びますのよ。ホホホホホ。」


「ハハハハ、そうなのかい。そんなに転んでいたら折角の綺麗なドレスが台無しだよ。次は気を付けてね。」


 茶髪の青年の手を借り少女は立ち上がる。ドレスをはたきながら男の方も頭を下げた。


「レンタ様!皆さん会議室に集まってますよーー。」


「ああ、すまない。今行くよ。じゃあ君たちも気を付けてね。」


 レンタと呼ばれた茶髪の青年は手を振り去って行く。彼の左腕には天使のエンブレムが付けられているのが見えた。


「シンタロウ、もしかして、、、」


「ああ、奴が今回のターゲット『光の国』の幹部:志島レンタだ。」


 さっきまで穏やかな雰囲気は消え、走り去って行くレンタを見る2人の目は冷たく濁っていた。




 その日の夜、志島レンタは会議を終え中央への輸送任務を行う為の最終確認をしていた。


「ふぅ、こんなもんか。これでダンジョン探索の準備が整う。そしたら大規模攻略の始まりだ。」


 するとレンタの元にドレスのようなものを着た影が歩いて来た。


「君は昼間の、、」


「先程はありがとうございました。お礼をしっかりと申し上げたいと思いまして。これを。」


 少女は小さな宝箱をレンタに見せる。それは宝石や装飾品などを入れる高価な箱であった。


「そんな、別に気にしなくていいのに。」


 少女はレンタの前に現れ箱を開ける。するとそこに入っていた石のような物が輝き始めた。


「なっ、これは転移石。」


 2人は光に包まれその場から消え去る。それを目撃した人間は誰もいなかった。






「ここは?」


 光から解き離れ転移した先は森の奥深く木々に囲まれた場所であった。


「"ディメンジョンホール"」


 転移先で待っていた戦斧を背負った男が魔法を唱える。3人を囲むように円状の結界が張られ逃げられないようになったようだ。


「これは、どういう事だい?」


「『光の国』の志島レンタ様とお見受けして、間違いありませんか?」


「ああ、その様子じゃ君もテスターの1人のようだね。なんでこんな事をする?」


 レンタは背負った槍を手に持ち構える。その風格は歴戦の戦士である事が伺われた。


 少女も隣にいた男から、彼女と同じくらいの大きさの戦斧を受け取り構える。


「まさか君が『悪逆令嬢』なのか?」


「ふふ、酷い名前だこと。私の名は久遠アリス。

 志島レンタ、あなたはここで死んでもらいま、、」

「"真槍烈風"」

 

 アリスの言葉が終わる前にレンタは光速の突きを放つ。アリスは予期していたかのように空中へと回転しかわした。さらにその遠心力を利用して両刃の戦斧でレンタに切り掛かる。


「"回天舞踏"」

「なに!?」


 レンタは槍で受け止めるも戦斧の威力に耐え切れず地面に転がる。攻撃の手を緩めずアリスはレンタの上から戦斧を叩きつけた。


「"魔神大波斬"」


 レンタはギリギリで避けるも、戦斧の当たった地面は割れレンタは風圧でボロボロになっている。


 レンタは互いの実力差を見極め逃げに徹しようとするも、さっきからピクリとも動かない男が張った結界が邪魔で逃げる事もできないでいる。


「どうして君達はそんな実力があって『光の国』へ入らないんだ!

 ダンジョン最下層にいる『エンシェント・ドラグーン』を倒せば元の世界へ戻れる事は知ってるだろ!」


 レンタの言葉にアリスの動きが止まる。自分の言葉に心が揺らいでいると思ったレンタは続け様に語りかけた。


「今、『光の国』の創設者である勇者パーティーが最後の大規模ダンジョン攻略に挑もうとしている。僕が彼らに話して君達をメンバーに入れてもらおう。そして一緒に現実世界へ帰ろうじゃないか。」


 アリスは戦斧から手を離しレンタに近づく。レンタは握手をする為にアリスに手を差し出した。


「何故、現実世界へ戻そうとするの?」


「えっ? ああああああああああああああああ!」


 アリスはレンタの手を握り潰す程の力で彼の手をとった。レンタは声にもならない叫びを上げながら悶絶する。


「私はこの世界がいいの。自由でしがらみもなくどこにでも行ける、この世界が。」


「な、な、、、ああ、、」


「貴方達は、さぞ現実世界で楽しい生活が待っているんでしょうね。でもね、私はここにいたい。

 邪魔してじゃねぇぞ、この野郎!!!」


 アリスはレンタを空中へと放り投げた。彼女はいつの間にか手に戻って来ていた戦斧を持ち飛び上がる。


「"黄泉への断頭台"」


「うわああああああああああああ、かはっ、、」





 夜が開け朝日が昇る。アリスとシンタロウは列車に乗っていた。


「シンタロウ、私駅弁なる物が食べてみたいですわ。」


「そう言うと思って買っておいたよ。」


「きゃーー、さすがですわー。いただきますぅ。」


 アリスは口元を盛大に汚し食べこぼしながら駅弁を口いっぱいに頬張っている。


「はぁ、しっかり拭けよ。次は南で武器供給を断つぞ。気合い入れていけ。」


 シンタロウの話をアリスは駅弁に夢中で聞いていない。そんな彼女にため息をつきながらも何処か憎めない彼であった。


「今を楽しく生きてくれアリス。お前が幸せなら、俺は、、、」



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