権堂を待ちながら
鮫島:「委員長、テスト終わったばっかりなのに勉強してたの?さすがだね」
委員長と呼ばれた艷やかな髪を一つにまとめた女子生徒は、その緊張感がなくだらしない声を聞いても顔を上げもせず、広いテーブルに広げていた参考書やらノートやら勉強道具一式を片付けて青いリュックにしまった。
委員長に声をかけた丸顔黒髪ボブの女子生徒、鮫島は向かいに座った。夕方のファミレスはまだ客が少なく閑散としているからだろう、ボタンを押すとすぐに店員は現れた。鮫島はドリンクバーを注文し、店員はポニーテールを左右に揺らしながら空いていた食器を下げていった。
そこまで済むのを待っていた委員長はようやく答えた。
委員長:「漫才のネタとして使えるから」
その声はいつもの、鮫島にとっては学校で聞き慣れた、抑揚のない声だった。
鮫島:「え?でも開いてたの教科書だよね。漫才は関係なくない?」
委員長:「教科書に書いてあることも全てが漫才になる」
鮫島:「そうなんだ。委員長っていつ漫才始めたの?」
委員長:「そうね……少し前から。それでサメさんはどうして漫才やりたいの?」
漫才のことで話をしたいと委員長に相談を持ちかけたのは鮫島だった。自分も漫才をやってみたい、そう考えた時に鮫島が相談出来るのはクラスメイトでもある委員長しか思い浮かばず、実際、委員長ほど適当な人物はいなかった。
鮫島:「はは、やっぱり単刀直入だね。まああれ、委員長がやってるのを見て私にも出来ないかなって思ってさ。漫才って陽キャっていうかいっつもフザケてる人がやるものだと思っていたけど、委員長みたいに真面目な人も出来るならって。委員長と違ってキャラは中途半端だから私に出来るかわからないけど。それでもやってみたいなって」
鮫島の幼く少し甲高い声からは彼女の高揚が感じられた。
委員長:「紀貫之か!」
急に上げた大きな声で離れた席の客にまで一瞬にして緊張が走る。無理もない。誰もが知る紀貫之に何があったのか気にならないはずがない。
見るといつもの冷静な委員長からはとても想像がつかない、目をガッと見開き威嚇する獣のようになっている。
鮫島:「え?え?紀貫之?なになに?それもしかしてツッコミ?全然突っ込むとこじゃないけどツッコミ?」
ビシッと伸ばした水平チョップのようなわざとらしい独特なあの手の動きとイントネーションから、委員長のその発言がツッコミであることは伺えた。伺えたが、それだけでは断定は出来ない。つまり、「紀貫之か!」それをツッコミとして過去に聞いたものは誰もいない。
委員長:「土佐日記の紀貫之ボケでしょ?」
委員長は「紀貫之か!」はツッコミだと主張する。
鮫島:「でしょっ?じゃないよ。わかんないよ!しかもなんでドヤ顔。そもそも私、ボケてないからね、真面目だからね」
委員長:「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり、でしょ?」
鮫島:「つまり、委員長が漫才というものをしているから私もしてみた、という私の動機が土佐日記の書き出しに似てるから『紀貫之か!』って突っ込んだってこと?」
委員長:「紀貫之か!」
鮫島:「わかんないよ!そんなツッコミ誰もわからないから」
委員長:「習ったでしょ紀貫之の土佐日記。日本初の日記文学って。まさか!?土佐日記を初めて習ったあの日のことを忘れたなんて言わせない!」
鮫島が見るといつの間にか委員長のネクタイは緩み、ワイシャツの一番上のボタンは外れ、まぶたは腫れぼったく目は潤んでいる。演技とは思えないその迫力に妥協し、委員長に話しをあわせたことが間違いの始まりだった。
鮫島:「確かに習った日のことは忘れたけど、っていうか初めて出会った記念日みたいに言われても習った日まで覚えている人なんていないからね。でもさすがに土佐日記のことは覚えてるし忘れていないよ」
委員長:「じゃあ土佐日記のこと嫌いになった?もしかしてほかに好きな日記が出来たの?」
委員長は両手をバンっと音を立ててテーブルを叩くと、身を乗り出しじりじりと上半身を近づけていく。大きなその目からは今にも涙がこぼれそうになる。
鮫島:「まあ……蜻蛉日記と更級日記がごっちゃになるから、そっちの方に気を取られてるのは確かだけど……」
委員長:「やっぱり他の日記のこと」
鮫島:「って、そんな目で見ないで!修羅場か!日記で争うってどんな修羅場だよ」
委員長:「じゃあ土佐日記のこと好き?」
鮫島:「好きだよ好き、好き好き。土佐日記のことは好きだから。っていうか、さっきから土佐日記土佐日記って、委員長土佐日記習いたての中学生みたい」
委員長:「中卒の癖に中学生馬鹿にするな!」
鮫島と委員長、二人は同じ高校へ通い、クラスメイトでもあり、二人ともに現時点で履歴書に書ける肩書は確かに中卒である。
鮫島:「現役高校生を中卒って呼ばないで!高校在学中、高校卒業目指してる途中だからね。中卒は間違ってないけど高校生って言って」
委員長:「じゃあ、まだ今でも土佐日記のこと好きなんだ。信じていい?」
鮫島:「だから好きだって土佐日記。そんなに目をキラキラさせない!顔も近い近い!でもさ、覚えたての言葉使いたくなるのはわかるけど、覚えたてで使いたくなるのは土佐日記じゃないでしょ、そもそも覚えたてじゃないし」
前のめりになって近づけた顔を戻すと委員長は緩めていたネクタイを整えた。
委員長:「土佐日記以外に言いたくなる単語、なんならいいの?」
鮫島:「そうだなぁ、ボイル=シャルルの法則とか」
委員長:「高校の範囲でしょ、ボイル=シャルルの法則。中卒なのに背伸びしちゃって。しかも本当に覚えたて」
鮫島:「まぁ覚えたては否定しない。あとただの中卒じゃない、高校通学中の中卒だからね。さっきから言ってるけど」
委員長:「でもボイル=シャルルの法則なんて言いたくなる?習いたてでもないわ、ないわ~」
鮫島:「王政復古の大号令は?」
委員長:「長い」
ムスッとした顔で被せ気味に否定する。
鮫島:「じゃあ墾田永年私財法」
委員長:「最初から墾田永年私財法言ってくれればいいのに。語感ネタの定番だってサメさんも知ってるでしょ、墾田永年私財法は」
ふくれっ面から一転して笑顔になり、労うような優しい声音になった。
鮫島:「ごめん。墾田永年私財法は最後の砦だから取っておきたくて出し惜しみしてた。やっぱり墾田永年私財法しかないよね」
委員長:「でも墾田永年私財法じゃツッコミにならない。『墾田永年私財法か!』ないわ、ないわ~」
鮫島:「いやいや「紀貫之か!」もツッコミになってないけどね」
委員長:「いや?でも漫才でボケとツッコミを覚えて一生ものにするという意味では「墾田永年私財法か!」もツッコミとしてアリかもしれない!」
今度は目を大きく見開いて眉を上げて「な?」という顔を作り鮫島に同意を求めるが、当然委員長が期待するような返事は返ってこない。
鮫島:「閃いた!みたいな顔で言っても使えないよ。そんなツッコミ誰にも全く通じないからね」
そう言われた委員長は大げさにガックリと肩を落とし背中を丸くして小さくなった。それを見て慌ててフォローする。
鮫島:「でも面白かったよ。委員長の漫才面白かった、権堂さんとやったやつ。見たのは動画だけどさ今度は見に行くから」
委員長:「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。お礼に漫才教えてあげる。権堂もバイトが終わったら来るから」
委員長の口角がわずかに上がる。本人にとってそれは笑顔のつもりだが傍から見てもそれがわからない。
鮫島:「権堂さんも来てくれるんだ!ホント助かるよ。まあ今日は最初から相談っていうより漫才教えてもらうつもりだったんだけどね。漫才を見るのは好きだけど何も知らないからさ。で、何教えてくれるの?」
委員長:「漫才でよく使われる、天丼」
鮫島:「あ、それ聞いたことある!同じボケとかツッコミを何度も繰り返すやつだっけ?」
委員長:「そう。お笑いの基本だから、天丼」
鮫島:「例えば、どんな風に使えばいいの?」
委員長は返事をすることなくメニューを広げ、間もなく店員を呼んだ。もう少しで夕食時になる。寂しかった店内も少しずつ客が入りはじめた。
店員:「お待たせしました。ご注文お伺いします」
委員長:「メガ盛りポテト、それと天丼」
鮫島:「それただの注文じゃん!食べられる天丼じゃなくてお笑いネタの天丼の話しだよ」
店員:「ご注文を繰り返します。メガ盛りポテトがお一つ、天丼がお一つ。以上でよろしいでしょうか」
委員長:「牛丼、カツ丼、僕天丼」
鮫島:「パクリか!しかも古いし、ボケてもいないし」
当然、店員のポニーテールは揺れることもなくクスリともしない。
店員:「ご注文を繰り返します。メガ盛りポテトがお一つ、牛丼がお一つ、カツ丼がお一つ、天丼がお二つ。以上でよろしいでしょうか」
直立不動の店員は表情一つ変えず、忠実に仕事をこなそうとする。
鮫島:「紛らわしくてすみません、メガ盛りポテトと天丼でお願いします」
店員:「ご注文を繰り返します。メガ盛りポテトがお二つ、牛丼がお一つ、カツ丼がお一つ、天丼がお二つ。以上でよろしいでしょうか」
鮫島:「すみません!すみません!!メガ盛りポテトと天丼だけです」
店員:「メガ盛りポテトと天丼がお一つずつですね。かしこまりました。メガ盛りポテトはいつお持ちしましょうか?」
鮫島:「え?」
委員長:「食後にお願いします」
鮫島:「食後?」
店員:「かしこまりました。少々お待ち下さい」
鮫島:「え?メガ盛りポテトってデザート?スイーツ?扱いなの?フライドポテトだよね」
委員長:「ジャガイモは野菜。だから、強いて言えばサラダ」
じゃあ天丼の前に持ってきてもらえばよかったのに、鮫島は一瞬だけそう考えたがそれ以上考えるのをやめた。
鮫島:「でも、お店の人巻き込んじゃ駄目だよ。店員さんが何も言わなかったからよかったけど、きっとイライラさせちゃったよ。なんとなく平気そうだったけど、うざい客に慣れちゃってるのかな」
委員長:「ファミレスなのに珍しいと思わない、天丼」
鮫島:「もしかして、さっきから最後に天丼って付けるの、天丼のつもり?」
委員長:「そう、これが天丼」
鮫島:「いやいやいや、ただの体言止めだし。しかもお店の人にも迷惑かけてるし。ちゃんとしたネタで天丼教えてよ」
委員長:「エビ、穴子、キス、さつまいも、かぼちゃ、なす」
鮫島:「それ天丼のネタじゃなくて天ぷらのネタでしょ、っていうか委員長の好きなネタでしょ。天ぷらのネタとかそういう小ボケいらないから漫才のネタで天丼教えてよね」
委員長:「エビだけにな」
それはボケらしいことは伝わるが、意図の見えない発言に当然無反応の鮫島。一瞬のはずの間が委員長にはとても長く感じられ、少しずつ表情が変わっていった。
鮫島:「天丼もエビも全くどこにもかかってないんですが。それに変顔じゃオチにならないよ」
両の黒目を左右に目一杯に離し口元を尖らせたエビの顔マネで誤魔化せるはずだった、少なくとも委員長はそう考えていた。それしか用意していない委員長はその変顔のまましばらく考えた。
委員長:「フリが悪い」
鮫島:「逆ギレか!考えたあげくに逆ギレですか。それになんで急に滑舌悪くなる」
委員長:「ボケが悪い」
委員長は腕を組み、いかにも機嫌が悪い、そんな雰囲気を醸し出す。そんな委員長を見て鮫島も自然と語気が荒くなる。
鮫島:「いやいや一度もボケてないよ!一度もボケてないからね。最初から真剣だったんだからね」
委員長:「俺をボケさせたら大したもんだよ」
鮫島:「長州か!長州力か!」
委員長:「わかりにくい!そのツッコミはわかりにくい。今の高校生に『長州力か!』じゃ伝わらない」
鮫島:「委員長、さっきの長州力のモノマネでしょ?もしかして違った?」
委員長:「ボケてないですよ!」
鮫島:「やっぱり長州力じゃんか!」
委員長:「それで結局なんで漫才を始めたいの?」
モノマネは諦めたのか、元の落ち着いた抑揚に乏しい口調に戻っている。
鮫島:「最初から言ってるでしょ、漫才やってるって聞いて私もやってみたいなって思うようになったって。だけど、紀貫之じゃないからね」
委員長は座ったままだがその場でスッと背筋を伸ばし、唐突に始めた。
委員長:「漫才がしたいなら私がファミレスの店員役やるからクレーマーやってみて」
鮫島:「いきなりコント漫才!?しかも私なんでクレーマー!普通のお客さんでいいじゃん」
委員長:「お客様、申し訳ありません。当店はしゃべくり漫才専門店でコント漫才の取り扱いはございません」
鮫島:「しゃべくり漫才専門ってどんなファミレス!コント漫才専門ファミレスなんてないんだから、どっちも扱ったらいいんじゃないの」
委員長:「コント漫才専門店は隣にございます」
鮫島:「あるんだ、そんなニッチで何をするのかもわからない専門店。それでここはどんなファミレスなの?しゃべくり漫才専門ファミレスって」
委員長:「当店はご家族お友達としゃべくり漫才を楽しめるファミレスでございます」
鮫島:「ああ、しゃべくり漫才見て笑いながら食事出来るってことね。そんなファミレスがあってもいいかも。楽しそうだよね」
委員長:「全然違います」
鮫島:「バッサリだな。こっちは客だぞ。じゃあ、人気の漫才師が働いているファミレスとか?」
委員長:「それは向かいのファミレスです」
委員長は手のひらを広げて右手で窓の外を示す。片側二車線の道路の向こうには確かにファミレスがあった。
鮫島:「本当にあるし!っていうか、ここファミレスだらけじゃん。潰れちゃうよ変なファミレスに囲まれてたら。しかも何するのかわからないファミレスばっかり集まっちゃって」
委員長:「当店はしゃべくり漫才体験型ファミレスとなっております」
鮫島:「体験?じゃあ自分で漫才するってこと?見る限りステージもマイクもないけど。それなのに体験出来るの?大丈夫かな。それでどんなメニューがあるの?このしゃべくり漫才専門ファミレスには」
委員長:「天丼がございます」
よく通る明朗な声でゆっくりとそう言うと委員長は深々とお辞儀をする。顔を上げると無言で立ち上がり、空になったグラスを持ってドリンクバーへと向かっていった。
鮫島:「落語みたいなオチつけやがって。それに全然天丼になってないし」
委員長:「よかったんじゃない、さっきの」
ドリンクバーから戻ってきた委員長は座る前に声をかけた。いつもの落ち着いた声に戻っている。
鮫島:「急に振るからビックリしたよ」
委員長:「さっきのクレーマー役、凄くよかった。「こっちは客だぞ!」って凄むところなんて因縁つけるのに慣れているのね、板についていた」
鮫島:「確かに言ったけど、凄んではいないからね。それに普段からクレーマーみたいな言い方やめて。それっぽくやってみただけだから、振るからやってみただけ、演じただけだからね」
委員長:「その割に迫真の演技だったね。クレーム入れるのは本当に初めて?」
鮫島:「初めてだよ!」
委員長:「じゃあ、サメさんは天性のクレーマーね」
鮫島:「天性のクレーマーって、演じてただけなんだから。クレーマーじゃなくてもっと他に言い方あるでしょ、褒める言い方が」
委員長:「じゃあ天性の詐欺師。私、騙されるところだった。本当はクレーマーじゃないなんて言われてすっかり。そんなはずはないのに」
鮫島:「だ・か・ら!私のことクレーマーだと思ってる!違うでしょ、クレーマーじゃないのは嘘じゃないから、騙していないからね」
委員長:「じゃあ、生まれつきのクレーマー?」
鮫島:「ナチュラルボーンじゃないよ!クレーマーの才能なんていらないから」
委員長:「前世も来世もクレーマー?」
鮫島:「カルマか!前世も現世もクレーマーじゃないから」
委員長:「おはようからおやすみまで暮らしを見つめるクレーマー?」
鮫島:「クレーマーっていうかストーカーになっちゃったよ」
委員長:「サメさん、さっきから私にクレームばっかり」
鮫島:「委員長が変なこと言うからでしょ!!」
――ドン!
店員:「お待たせしました。天丼になります」
店員はわざとらしく音を立ててテーブルに置き、聞き慣れたその台詞は注文を取りに来た時とは違い思いっきり嫌味が込もっている。
店員:「お客様申し訳ありませんが周りのお客様のご迷惑となるので」
店員は髪全体をポニーテールで纏めおでこを出しているおかげで、その表情は二人にもよく伝わった。
鮫島:「すみません、煩かったですよね。静かにします」
エスカレートしていつの間にか声が大きくなっていたことを気にした鮫島は、店員の不躾な態度にも気持ちが押され、声が小さくなった。
店員:「天丼はお早めにお召し上がりください」
鮫島:「あの……天丼、早く食べないと駄目なんですか?」
予想していなかった言葉に鮫島は小さい声のまま、恐る恐る様子を伺うように聞いた。
店員:「ああ、丼が足りないんで」
鮫島:「足りない?冷めると美味しくないとかじゃなく、丼が足りない」
店員:「ファミレスで丼ものを注文するお客様はアレなので、丼は一つしか用意してないから。じゃ、ご協力の程よろしくおねがいしま~す」
混み合っているわけではないが忙しいのだろうか。店員は最後まで言い終える前に鮫島のテーブルに背を向けていた。
鮫島:「なんか、さっきからこのお店変じゃない?言葉遣いもだし丼が一つしかないとか。天丼を注文する客はアレってちょっと酷いよね」
声のトーンがもとに戻った鮫島の問いかけに、委員長はスッと背筋を伸ばすとしゃがれた老人のような声を作って返した。
委員長:「皆さんは接客業の店員です。難癖をつけられクレーム対応で疲れています。愚痴をこぼしてください。私が『アレな客だからね』と言うのでどんな客か教えてください。はい鮫島さん早かった」
委員長は扇子代わりにスプーンを使って鮫島を指名した。
鮫島:「大喜利か!っていうか長いよボケが。しかもなぜ大喜利」
委員長:「はい鮫島さん」
委員長はぴくりとも動かず、ただじっと鮫島を見つめた。
鮫島:「そんなにやりたいの!?大喜利好きなの?ちょっと強引すぎだよ」
委員長:「アレな客だからね」
作った声で合いの手を入れ委員長は回答を待つ。じいっと見つめられ、徐々に委員長が近づいてくるような錯覚すら覚える。ジリジリとした圧力、その強引さに押されて鮫島はオチを考える。しかし大喜利の用意をしていたはずもない。数秒、いや10秒は間があく。
鮫島:「親と子を同時に食べたいなんてね」
委員長:「店員さん、丼全部持ってって」
店員:「はい喜んで!」
席からだいぶ離れているにもかかわらず、店員は秒で返す。
鮫島:「ちょっと待って、食べるからちょっと待って」
鮫島は両手をバタバタさせて違う違うと合図を送ると、それを確認した店員は背を向けて仕事に戻ったようだ。
委員長:「私、下ネタは嫌いなの。男性に媚を売ってるみたいで」
それまでとはまるで違う声で鮫島を戒めた。
鮫島:「ごめん。急に大喜利振られて出てこなかったから。つい咄嗟に頭に浮かんだのがあれで」
想定外に下ネタに乗ってこないせいで鮫島の顔は赤くなっていく。
委員長:「親子丼を注文している人をそういう目で見ちゃうから、下ネタは二度とやらないで」
鮫島:「親子丼好きな人はそんなこと考えてないからね!それに下ネタはもうやらないから」
委員長:「下ネタは禁止、しっかりと覚えておいて。それで、この天丼食べないの?」
鮫島:「注文したの委員長でしょ」
さっきは思わず「食べるから」と言った鮫島だったが、空腹というわけではない。
店員:「お待たせしました、マヨネーズになります」
テーブルにドカっと業務用の大きなチューブを置いて二人に割って入ってきたのはまたしても店員だった。
鮫島:「マヨネーズ?頼んでいないんですが」
先程の店員の態度を忘れていない鮫島は明らかに不満のある声で言った。
店員:「ああ、天丼にマヨネーズかけそうな顔してたから気を利かせて持ってきたんだけど。マヨネーズ好きでしょ?かけてあげるよ」
満面の笑みでそう言った店員が見ているのは鮫島だ。
鮫島:「もしかして私、なんにでもマヨネーズをかけそうな顔、してるの」
委員長は笑いを噛み殺しているがプププと音は漏れている。
店員:「そりゃもう、ドバーッと。唐揚げ、バターご飯、ドーナツにもマヨネーズ、なんにでもマヨネーズかけるでしょ?」
鮫島:「それって、つまり、太ってるって言いたいんじゃ……」
店員:「そうは言ってないけど、好きそうだなぁって。顔を見ちゃうとね、わかっちゃうんだよね、この仕事してると。マヨネーズかどうか」
委員長は両手で口を抑え今にも噴き出すのを堪えている。
鮫島:「いりません!マヨネーズなんてかけたことないから」
委員長:「もしかしてサメさんキレてるの?」
鮫島:「キレてないよ」
委員長:「プ、長州、ププ、長州か」
鮫島:「モノマネじゃないし」
顔を真っ赤にした鮫島の声はさらに1トーン高くなる。
店員:「大丈夫?マヨネーズなくても食べられる?」
鮫島:「常にマヨネーズ持ち歩かないと不安になる人みたいな扱いしないで!」
店員:「いつでもいいからね、マヨネーズ足りなかったら言ってね」
少しがっかりした店員は大きなマヨネーズを持って行ってしまった。
鮫島:「ホント失礼だよね、さっきからあの店員」
委員長:「でも悪気があったわけじゃないと思う。サメさんがマヨネーズ欲しそうな顔してるから」
鮫島:「そんなことないから!」
委員長:「食べないの天丼?やっぱりマヨネーズが欲しかった?」
鮫島:「天丼にかけるならマヨネーズじゃなくてタルタルソースだし。っていうか委員長、食べないのになんて注文したの?」
委員長:「だって天丼知らないっていうから」
鮫島:「この天丼は知ってるから、食べる方の天丼はむしろよく知ってるから。天丼大好きだから」
委員長:「じゃあ天丼役やってみて、私食べるから」
鮫島:「またコント漫才か!っていうか天丼役って何したらいいの?『パカッ、天丼です』みたいな感じ?」
鮫島は帽子を取るような動きに低い声を作り天丼を演じてみせたが委員長はゆっくりと首を横に振る。さらには大きくため息を吐き、一度目線を逸し遠くを見た。
委員長:「サメさんに天丼役はまだ難しいみたいね」
鮫島:「え!?なになに?私が滑ったみたいな顔しないで」
委員長:「じゃあ、まずはレンコンの天ぷら役からやってみて、私食べるから」
鮫島:「天ぷら役からステップアップすると天丼も演じられるの?そもそも天丼もレンコンの天ぷらも喋らないからね、動けないからね。役っていってもすることないよ」
委員長:「いただきま〜す」
鮫島の的確な指摘を無視した委員長は天丼からレンコンの天ぷらを箸で取るとわざとらしく大きく開けて口に入れる。
――ガブ
委員長:「思わず一口で半分も食べちゃった。このレンコンが人間なら一口で上半身食べちゃった」
鮫島:「例えがスプラッターだよ、上半身食べられちゃったら喋られないからね。ボケなんて出来ないよ」
委員長:「ということは、先に下半身を食べて上半身を残していたら面白いことを言う準備があった、と」
鮫島:「ないよっ!上半身でも下半身でもレンコンは喋らないからね」
委員長:「じゃあ次はエビ天役やってみて、私食べるから」
鮫島:「エビもしゃべらないから」
委員長:「はぁぁ」
委員長はわざとらしく大きなため息をつく
委員長:「そこはまずエビの顔マネでしょ、これだから素人は」
委員長は再び両の黒目を左右に目一杯に離し口元を尖らせて、じっと鮫島を見つめている。
鮫島:「え?エビの顔マネ?ってもしかして、委員長のさっきの変顔ってエビの顔マネだったの?」
委員長:「エビの顔マネは?」
器用にエビを真似た変顔のまま委員長催促する。
鮫島:「……こう?」
委員長のやるように鮫島も顔を赤くして目一杯両目を離して口を尖らせた。
委員長:「写真撮るからそのままで」
鮫島:「ちょっと恥ずかしいよ」
――パシャ
素早くスマホを取り出して撮影すると、スマホの画面に大きく写った鮫島の変顔を見せつけた。
委員長:「どうこれ?ツイッターのアイコンにちょうどいいと思うのだけど」
鮫島:「変顔のアイコンなんて、それだけで滑ってるよ」
鮫島は冷たくそう言った。
委員長:「じゃあ私のアイコンにする」
鮫島:「私の変顔使わないで!」
委員長:「顔を赤く出来るなんてエビの顔マネ、サメさんに向いているんじゃない?」
鮫島:「恥ずかしいだけだよ!」
未だに耳まで真っ赤にした鮫島とは対照的に、委員長は涼しい顔でゆっくりとコーヒーを一口飲んだ。それにつられたのか、鮫島もコップを手に取ると中身を一気に飲み干す。それでも足りず、ドリンクバーへ向かった。
コップに黄色い炭酸を入れてドリンクバーから戻ってくる頃には真っ赤だった鮫島の顔も元に戻っていた。
鮫島:「委員長は恥ずかしくなったりしないの?ステージに立つ時って緊張したり、滑ったらどうしようとか不安になったり」
委員長:「そうでもない」
鮫島:「そっか、なんとなく委員長って肝が座っているっていうか物怖じしないとこあるもんね」
委員長:「漫才の滑った時が好き。だから緊張はするけど不安にはならない」
鮫島:「どういうこと?ウケないって辛いものじゃないの?笑わせようとしてるのに。なのに滑った時が好きってウケなかった時の予防線、強がりみたいなことじゃなくて?」
委員長:「私は小4から今までずっと委員長って呼ばれている。サメさんも私のことを名前じゃなくて委員長って呼ぶように、皆が委員長って呼ぶでしょ」
脈略もなく話を変えられて戸惑うがそれは安易に突っ込める内容じゃないことは鮫島もわかっていた。なんと返せば笑いにつながるのか鮫島にはわからなかった。
鮫島:「ゴメン気が付かなくて……無神経だったよ、委員長って呼ばれるの嫌だったんだね」
委員長:「そうでもない」
鮫島:「え?」
空気を読み、傷つけてはいけないとようやく正攻法で返したというのに「そうでもない」の一言で済ませたことに怒りを込めた「え?」だった。しかし、そこに込められた気持ちが委員長に通じるかというと。
委員長:「そうでもない。委員長って呼ばれるのが嫌いかといえば、そうでもない」
鮫島:「そうでもない?そこは「委員長って呼ばれるのはずっと嫌いだった!皆と同じように私も名前で呼んで欲しい!」的な流れなのに、それなのに「そうでもない」?」
委員長:「委員長って呼ばれるのはいい」
鮫島:「じゃあ委員長だと他に嫌なとこがあると?確かに学校行事の面倒事とか押し付けられそうだしね。委員長あれやっといて、これやっといてみたいなのが嫌になっちゃうよね」
委員長:「そうでもない」
またしても鮫島の先読みがすれ違う。噛み合わない。
鮫島:「じゃあもうずっと委員長でいいじゃん」
委員長:「そうじゃない。委員長キャラってちょっとボケても誰も突っ込んでくれないし寒いギャグを言ってもスルーされてなかったことになるのが嫌」
鮫島:「そこ?でも確かにそういうのはあるよね。真面目な人が突然変なこと言うとツッコミにくい的なやつが。それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?みたいな空気に」
委員長:「だから委員長の時は滑るってわかっているギャグもボケも言えない」
鮫島:「いやいやいや、そこは面白いこと言っておこ。滑るってわかってるならやめて、積極的に笑い取りにいこ」
委員長:「だけど漫才は違う!漫才なら滑ってもいい!」
鮫島:「いやいやいや、よくないでしょ、漫才だって滑るのはよくはないと思うよ。だって笑顔になって元気になって欲しいとかでしょ、漫才をするモチベーションって」
委員長:「そうでもない」
鮫島:「いやいやいや、そうでもないって!ちょっと引くんだけど。そこは嘘でも「みんなを笑顔にして元気づけたい!」みたいなキラキラした事を言うとこでしょ、委員長キャラなんだから特に」
委員長:「私は笑顔よりも滑って冷たい視線にさらされたい!」
鮫島:「だからそれはおかしいでしょ」
委員長:「委員長の時はそれすらないの。寒いギャグを言ってもスルーされるだけ。そんなの、その場にいないのと同じ。無視されているのと同じ。っていうか無視される。でも漫才は違う!滑っても無視はされない。面白くないって反応が返ってくる。汚らしいものに近づきたくない、そんな視線が投げられるから好き」
鮫島:「これってもしかしてイイ話?ほんの少しだけそんな気がするけど、だけど私の中で僅かでも認めたくない気持ちとせめぎ合っている」
委員長:「だから私は滑ってもいい」
鮫島:「だから、あんまり面白くないこともバンバン言うんだ」
委員長:「失礼だな君は」
鮫島:「だって委員長が滑りたいみたいなこと言うから」
委員長:「滑ってもいいとは言ったが、滑りたいなんて言ってないんだが」
鮫島:「ごめん、そうだよね。やっぱり笑わせたいんだよね。漫才やってて滑りたいはずないよね」
委員長:「そうでもない」
鮫島:「どっち!」
疲れ果てた鮫島はコップを持って再びドリンクバーへと向かう。漫才を教わるつもりだったのに、教わるというより漫才に巻き込まれていることが不思議だった。もしかしたら自分は漫才に向いているのか?などと思い上がった勘違いが頭をよぎる。
そうじゃない。だけど、委員長が乗せてくるのは適正を認めているんじゃないか?だから試すように漫才みたいなことをやらせるのだ。
そんな風に都合よく捉えた鮫島は勝手に気分がよくなり、委員長の分の飲み物も持ってテーブルに戻った。
委員長:「それでサメさんは漫才ネーム考えてる?」
やはりそうだ、つまり私は即戦力になると言いたいのだ、鮫島はそんな風に捉えた。
鮫島:「漫才ネーム?芸名みたいなもの?まだ考えていないけど、本名じゃなくて何かつけないとダメなのかな?」
委員長:「ダメではないけど、本名そのまま使うと家にストーカーが訪ねてきたり、警察が訪ねてきたりするから」
鮫島:「確かにストーカーも警察も家に来たら怖いけど、たぶん警察は違うよ。それなりの理由がないと警察は来ないと思うよ。それで委員長はどんな漫才ネームなの?」
委員長:「私は委員長。権堂につけてもらった」
鮫島:「権堂さん学校違うのに委員長なんだ」
委員長:「初めて会った時からそう呼ばれていたから」
鮫島:「いかにも委員長ってのがわかっちゃうんだね。でも、そのまんまだよね」
委員長:「そのまんまがいいの。名前もキャラ作りの一つだから。私の場合は委員長って名前とセーラー服でキャラを作ってる」
鮫島:「委員長って名前と衣装のセーラー服でキャラ作りか。同じネタでも衣装によってウケが違うとか、ボケとツッコミが衣装でわかるようにしてるって話をテレビで聞いたけど、衣装ってキャラ作りに大切だよね。コテコテな女子高生っぽいイメージを作るなら学校の制服よりセーラー服の方がいいよね。おとなしそうな感じとか真面目な感じがあって、セーラー服」
委員長:「そう、そんなキャラ作りを目指しているの。ドンキで買ったペラペラのセーラー服で」
鮫島:「それ現役の女子高生が着たらダメなやつじゃん!ダメだよそんなの着て人前に出たら」
委員長:「ステージから近い席だと透けて見えるって評判だから。配信なら投げ銭も多くなるし」
鮫島:「余計にダメだよ!さっき、そういうの嫌いって言ってなかった?お願いだから漫才で喜んでもらお、ね」
委員長:「ところで、私サメさんの漫才ネーム考えてきたのだけど」
鮫島:「ほんとに!ありがとう。どんな名前考えてきたの?教えて」
委員長は鮫島が持ってきたコーラを一気に飲み干した。鮫島と目が合っていることを確かめてから言った。
委員長:「鮫島ノーフューチャー」
委員長は遠慮せずにゲップをした。
鮫島の頭に浮かぶ芸人の名前とはまるで違い、それをどう受け止めていいのかわからず、無遠慮なゲップを放置したまま十秒ほど固まった。片仮名を組み合わせた芸名は珍しいとは言えない。しかしノーフューチャーだ。キャラ作りという意味でそれをどう活かせるのか。鮫島にはその名前で活躍する未来の姿を想像できなかった。
鮫島:「ノーフューチャー?それってどういう意味?」
これから生まれる漫才人生を大きく左右するかもしれないと思うと、鮫島の声は自然と落ち着いたものになっていた。
委員長:「鮫島には未来がない、ってこと。いつも向こう見ずでヤケッパチなサメさんの特徴がよく現せたと思うのだけど気に入ってくれた?」
鮫島:「やだよそんなの!気に入るわけがないでしょ、未来がないなんてさ。それに私って向こう見ずなキャラだったの?」
委員長:「キャラがわかりやすくなれば、ボケでもツッコミでもピンポイントになって伝わりやすくなるから」
鮫島:「それって、つまり、キャラはボケにもツッコミにも繋がってるってこと?まあ、言われてみるとそれはなんとなくわかるけど。ナルシストキャラだから出来るツッコミとかあるもんね。でも、私がノーフューチャーだとして例えばどんなツッコミになるの?」
委員長:「『未来なんてないのに何ユメ見てるんだよ!』とか。このツッコミからボケが逆算出来るでしょ」
ツッコミというよりも、それは舞台役者の演技だった。
鮫島:「いやいやいや、辛辣すぎでしょそのツッコミ。キャラでツッコミとボケが固まるってのはわかったけど、辛すぎて笑えないよ!」
委員長:「『ユメを持ったら余計に辛くなるだろ!』なんてのもいいと思う」
鮫島:「どんな漫才なのそれ!まだ女子高生なんだから明るい未来あるはず、もっと前向きな漫才させて」
委員長:「じゃあ、『鮫島の戦いはこれからだ』」
鮫島:「それ打ち切りじゃん!未来ありそうで皆無だからね、そのフレーズ。確かに前向きっぽいけど、「これから」が永遠に来ない時にしか使わない言葉だよ」
委員長:「悪くないと思うのだけどサメさんは案外繊細ね。じゃあどんなキャラがいいの?」
鮫島:「出来れば前向きな言葉でつっこまれるような名前がいいかな」
委員長:「それじゃあ、”鮫島には同意しかない”」
鮫島:「なになにそれ、名前っていうか説明になっちゃったけど」
委員長:「それな!」
鮫島:「それツッコミじゃないじゃん。前向きって言えば前向きだけど、完全に受け入れちゃったらボケがボケにならないからね」
委員長:「それな!」
鮫島:「やりにくいよ、絶対」
委員長:「それな!」
鮫島:「もういいよ!」
委員長:「じゃあサメさんは何か思いついた名前ないの?」
鮫島:「説明みたいな名前じゃなくて、愛称を使うのはどう?」
委員長:「愛称ね、愛称でもいいと思う。例えば?」
鮫島:「鮫島だから、シマパンは?女子アナってそういう愛称つけるでしょ、〜パンって」
委員長:「地味パン?」
鮫島:「委員長!なんで意地悪するの!」
委員長:「もしかしてその女子アナ気取りはボケだった?」
鮫島:「……すみません」
丸顔の鮫島はしゅんと小さくなった。
委員長:「やっぱり初心に帰って”鮫島ノーフューチャー”がいいと思う。無鉄砲なキャラ付けとして使えばネタも作りやすくなるから」
鮫島:「それって無鉄砲なキャラクターを活かしたネタを作るってことだよね?そんな漫才見た記憶がないんだけど」
委員長はまた背筋をすっと伸ばした。
委員長:「突然だけど、なろう系ってあるでしょ?」
それまでの少し気だるげな声から張りのある声を作り問いかけた。勝手がわかったのか慣れたのか、それを合図と受け取り鮫島も対応する。
鮫島:「ああ、流行ってるみたいだね。こっちの世界で死んじゃって異世界に生まれ変わって活躍するのが特に人気なんだってね」
委員長:「そう、異世界転生。私も一度転生してチート主人公になってみたいんだ」
鮫島:「じゃあ私、主人公のチートを知らずに舐めてかかって真っ先に殺られる噛ませ役のモブキャラやるね、ってやだよ!そんな無鉄砲なモブキャラやりたくないの!そんなシチュエーションコントやりたくないの。もっと前向きなのがいい!」
委員長:「わがままね。じゃあ次はノーフューチャーがなろう系主人公やってみて。私は中ボスやるから」
鮫島:「中ボス?ラスボスじゃないんだ。まあ、チート主人公ならいいけどね」
委員長:「へっへへ、こんなものかお前の渾身の一撃は。勇者といえど所詮は人の子」
鮫島:「必殺技ってのは必ず殺すから必殺技なんだよ!これが俺の必殺技だ、くらえ狼炎爆昇撃!」
委員長:「グエー死んだンゴ……鮫島の戦いはこれからだ!ノーフューチャー先生の次回作にご期待ください」
鮫島:「やっぱり打ち切りだよ!」
委員長:「無鉄砲なろう系モブキャラ女子高生、鮫島ノーフューチャー。得意ギャグはエビの顔真似。うん、キャラが出来てきた」
鮫島:「そんなキャラで納得しないで!もう一回、キャラ設定やり直したいんですけど」
委員長:「でも、そろそろ権堂が来るみたい」
店員:「メガ盛りポテトでございます」
山盛りになったフライドポテトがテーブルの真ん中に置かれると、間髪あけずに「どうぞ食べて」と委員長が言う。その声を待つことなく店員は巨大なマヨネーズをフライドポテトにかけると口いっぱいに頬張る。それを飲み込むと委員長の隣に座った。
鮫島:「え!?なんで食べてるの?」
開いた口が塞がらない、鳩が豆鉄砲を食ったように目を見開き、鮫島はそういう顔になっていた。
委員長:「沢山あるんだからいいじゃない」
鮫島:「そういうことじゃなくない?だってお店の人だよ」
委員長:「権堂、バイト何時までなの?」
店員:「今日はシフト入ってないよ」
再びフライドポテトを口に放り込む。モグモグしながら「マヨネーズ好きでしょ?」という顔を再び作って業務用のボトルを鮫島に差し出した。
鮫島:「え!?店員さん?店員さんが権堂さんだったの?じゃあこれって権堂さんが店員役のコント漫才?コント漫才専門ファミレスは隣じゃないの?」
店員:「君おもしろい事言うね。隣のファミレスは先月潰れちゃったよ」
委員長:「隣にファミレス作るなんて随分馬鹿よね」
鮫島:「え?どういうこと?」
委員長:「でもいいの?バイトじゃないのに制服のまま遊んでて」
店員:「大丈夫、この制服向かいのファミレスのだから」
鮫島:「向かいのファミレス?じゃあさっき委員長がやってたのってネタじゃなくて、もしかしてここが、しゃべくり漫才専門ファミレスって本当にあったの?ここがしゃべくり漫才専門ファミレスだったの?」
委員長:「サメさん何言ってるの?」
鮫島:「いや、だって」
店員:「ここはコント漫才専門ファミレスだよ」




