決意の固い琴音さん~頑固なお嬢様~
……いや、そりゃあ琴音さんと一緒にいられる時間が増えるのは嬉しいのだが、さすがにこんな底辺校に通うのは……。
「わたくしの決意に揺らぎはありません♪」
だが、一点の曇りもない笑顔で言い切る琴音さん。
やっぱりお嬢様は強い。というか、意外と頑固だ琴音さんは。
「お嬢様にとって環境を変えることが第一だと存じます。お嬢様の現在通っている学園は窮屈で息苦しく精神衛生にたいへんよろしくございません。人にとって、なによりも大切なのは心と体の健康でございます。健康こそ、なにものにも代えられない財産でございます」
凪咲さんも琴音さんに助力する。
ふたりの意志は固いようだ。
しかし……。
「で、でも、本当にいいんですか!? うちの学校マジでバカばっかですよー! 生徒会長のあたしですらコレですよ!? 家名にキズがつきますって!」
一香は自分を指差しながら翻意するよう促すが――。
「一香さんは素晴らしい女性です♪ ぜひ、見習わせてください♪」
琴音さんは譲らない。
どんどん笑みが深まっている。
……ううむ。琴音さんの決意は、かなり強固だな。
でも、琴音さんのそういう分け隔てない姿勢があったからこそ俺と葉菜は救われたのだ。
琴音さんが世間一般的な価値観の資産家だったら、俺や葉菜のような貧乏人に関わることなんて絶対になかっただろう。
……琴音さんに救われた俺は、彼女のために全力を尽くすべきだよな。
ここまで決意が硬いのならば。
「……わかりました。俺は琴音さんの意志を尊重します。琴音さんがこの学園で充実した生活を送れるように全力を尽くしますよ」
「ちょっ、道広!?」
一香から驚愕の表情で見られるが、俺も肚を決めた。
琴音さんに助けられた命だ。
琴音さんのために使う。
「道広くん、ありがとうございます♪」
「さすが道広様でございます」
俺が琴音さん側についたことで、残る反対者は一香だけになる。
「……むぅうー……こうとなっちゃあ仕方ない! わかった! あたしも協力する!」
最終的には一香も琴音さんの転校に同意した。
「一香さん、ありがとうございます♪」
「さすがはお嬢様の認めた生徒会長でございます」
これからどうなるやら。
まったく予測不可能だ。
「ふふ、これからどんな学園生活になるのでしょう♪ ワクワクします♪」
「わたしも楽しみでございます」
ふたりにとっては不安よりも期待のほうが勝っているようだ。
……うん。そうだな。期待と不安があるのなら、期待を大事にしたほうがいいだろう。
お嬢様学校という籠の中で窒息するよりは、新天地を求めるほうがいいかもしれない。
俺もそう自分自身を納得させて、これからの琴音さんたちと一緒の学園生活について考えることにした。




