葉菜にマッサージをする
「そ、それじゃ、葉菜、始めるぞ」
「……う、うんっ……」
さっきまでの勢いもどこへやら。葉菜も緊張しているようだ。
そもそも妹に対してマッサージなんてしたことなんてない。
「……は、葉菜……初めてだから、優しくしてねっ……?」
もちろんマッサージ的な意味で『初めて』という意味だ。
この状況で変な誤解を招くような発言はやめてほしい。
「……だ、大丈夫だ。優しくするから……」
俺も謎の緊張を覚えながら、震える手で葉菜の背中へと手を伸ばす。
「ひゃうっ……」
ビクンッと身体を小さく跳ねさせる葉菜。
だから、無駄に変な声を出さないでほしい。
しかし、ここは耐えてもらわねば。
そうじゃないとマッサージなんてできない。
「い、いくぞ、葉菜っ」
「う、うんっ……お兄ちゃんっ」
俺は心を虚無にしてマッサージを開始した。
両手の指に力を入れて、葉菜の背中を揉みほぐしていく。
しかし――。
「ふふっ、お兄ちゃん、くすぐったいよぉっ、あははっ」
どうやら凪咲さんから教わったマッサージ技術は葉菜には通用しないようだった。
くすぐったがって体をよじっている。
「ほら、動くな、葉菜。マッサージできないじゃないか」
「だ、だってぇっ……! あははっ、くすぐったいんだもんっ……!」
これでは施術不可能だ。
まぁ……小学生の葉菜にマッサージは不要かな。凝ってる感じは全然なかったし。
「道広様、見事でございました。初めての施術でここまでのマッサージをできるとは感服いたしました。道広様には類稀なマッサージの才能がございますね」
「道広くん、本当にお上手でした♪ もう毎日でもマッサージしてほしいぐらいです♪ メロメロになってしまいました♪」
凪咲さんから絶賛され、頬を赤らめた琴音さんからは潤んだ瞳を向けられる。
俺の評価が無駄に上っていた。
というか、これは喜んでいい才能なのだろうか……。複雑な心境である。
「道広様は、このマッサージ技術だけで巨万の富を築くこともできると思います。それぐらい卓越したマッサージの才能でございます」
「で、でも、道広くんっ、この技術はわたくしたちだけに使ってくださいね? ほかの女の人にしないでくださいっ」
そこまで俺のマッサージ技術に価値はあるのか……?
まぁ、そもそも同年代の女子にマッサージをする機会なんて普通はないと思うが……。
「……それでは、次の指導に移らせていただきます。メイドや執事にとっての基本。お掃除やお茶出しなど家事全般についてです」
おお、やっと執事らしい仕事内容だ! よかった!
このまま精神修行が続くのかと思ったので、ホッとした。
実際に、このあとはちゃんとした真面目な仕事内容の実習が続いた。
俺と葉菜は凪咲さんの指導のもとしっかり実習をこなしていった。
うん。やるべきことはやらねば。遊んでばかりじゃだめだ。
久しぶりに労働をして心身が充実した俺であった。
琴音「この話で第三章は終了です♪ いつも読んでくださってありがとうございます♪」




