凪咲さんにマッサージ
………………。
…………。
……。
「……さて。それでは、次は道広様にマッサージをしていただきましょう。まずはわたしが実験台になります」
そう言って凪咲さんはベッドにうつぶせになった。
「え、でも……」
凪咲さんが俺にしていたようにやるとなると、凪咲さんの腰のあたりに俺が跨ることになってしまうのだが……。
「遠慮することはありません。思う存分揉みしだくなり揉み潰すなりしてくださいませ」
「み、道広くんっ! 実験台なら、わたくしに! ぜひっ♪」
その横に琴音さんもうつぶせになった。
「葉菜もっ!」
さらには葉菜もゴロンと横に転がる。
なんなんだこの状況は。魚市場のマグロか。
「いやでも! さすがに女子にマッサージをするのはマズいのでは?」
常識的な疑問をぶつける俺だが――。
「そんなことはございません」
「そうです♪ わたくしも無問題です♪」
「葉菜も!」
おおう……。最近の大和撫子はアクティブでアグレッシブだな……。
いろいろとセンシティブな気もするのだが、ここで逃げていては仕事にならない。
「心頭滅却」
口に出して煩悩を一時的に追い払う。
心頭滅却すれば女体もただの肉塊。
「えっと……それじゃ、マッサージを開始します」
職務上は凪咲さんを優先すべきだろうが、恋人係的には琴音さんを最優先すべきだ。
うーん。迷う。
「えっと、一応仕事の練習ということで、まずは凪咲さんから優先します」
「よい心がけです」
「むうぅ……残念ですが、致し方ありませんね……」
「いつだって妹は後回しで損だよぅ……」
ひとつを選ぶということは多くの選択を斬り捨てるということでもある。
断腸の思いだ。しかし、背に腹は代えられぬ。
日本語の使い方が微妙に間違っているのではないかと不安になりつつも、俺は凪咲さんの腰のあたりに座った。極力、体重をかけないようにする。俺は和製(埼玉製)ジェントルマンなのだ。
「えっと、それじゃ、始めます」
「どうぞ」
俺は、おそるおそる両手を伸ばし……凪咲さんの背中に両手の指を押し当てた。
そして、親指に軽く力を入れて押してみる……って、すごい柔らかいっ!?
こんな柔らかい体に俺の武骨な指で触れて大丈夫なのだろうかと心配するレベルである。
「……もっと力を入れていただいて大丈夫です。それと、しっかりと腰を下ろして体重をかけていただかねば。そうしないとマッサージ時に力が伝わりません」
俺の不安を察知したのか凪咲さんが促してきた。
さすがは優秀なメイドさんだ。