ただいま妹
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放課後。
弁当箱を一香に返した俺は、まずは自宅へ帰ってきた。
鍵を開けて中に入る。
「ただいま。葉菜、帰ったぞー」
「お兄ちゃん、お帰りー♪」
「ああ、ただいま」
葉菜が満面の笑みで迎えてくれた。
つい先日までは毎日のように借金取りが家に押しかけていたのだ。
そう考えると、こうして家に帰ってこられるようになったのは感慨深い。
「えへへ♪ こうやって普通にお兄ちゃんのことを出迎えられるようになって嬉しいよぉ♪ 居留守使わないでいいし怒鳴ってくる人も来ないし」
「ああ。平穏な暮らしって本当にいいな……」
しみじみと思う。
ほんと、世界はこんなにも静かだったんだな……。
「あのとき琴音さんに出会わなかったら葉菜、死んでたし、本当に、地獄で仏だよ……」
「ああ。すべて琴音さんのおかげだな……」
結局、俺の稼ぎじゃ焼け石に水だったしな……。
そして、葉菜自身がそこまで思い詰めていたことに思い至らなかった俺は兄失格である。
まあ、労働だらけで葉菜のことを気にかけていられなかったというのもあるが。
「えっと、それじゃ、少し休んだら琴音さんのところへ行こう」
「う、うんっ。いまだに緊張するよぉ……」
俺たちは三日に一度、夕飯を扇山家でいただくことになっていた。
琴音さんの希望によるものだ。
豪華なメシを食べられるのはいいのだが、俺たちのような貧乏人があの豪邸に入るのは気が引ける。まあ、琴音さんと凪咲さんと四人で食事をとるだけといえばそうなのだが。
「あんなにおいしいものがたくさん食べられるなんて、葉菜、夢の中でも思わなかったよ。いまだに夢じゃなかいかなって思うぐらいだもん」
俺も同感だ。
本当にこれは現実なのかと疑うレベルである。
朝、起きるたびに不安になる。ぜんぶ夢なんじゃないかと。
だが、通帳を見てホッとするのだ。
初めて扇山家から入金されたあと通帳に記帳したときは信じられない額を見て卒倒しそうになったものだ。
ともあれ。着替えをすませ、葉菜が宿題をやるのを見てやり(といっても優秀な妹なので教えることはほぼない)、琴音さんのところへ向かう時間となった。
「よし、行くか」
「う、うんっ!」
俺たちが持っている服で最もマシなものを着て、扇山家へ向かった。