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ケーキとピンチと乙女心

「というわけで、道広くん、あーん♪」


 再び俺に『あーん♪』を仕掛けてくる琴音さん。

 そこをすかさず――。


「道広ぉー! 口を開けー!」


 一香も俺に激しく促してくる。

 ……本当に、なんなんだこの状況。


 そんな中、凪咲さんが一言。


「青春でございますね」


 そうなのか?

 青春とは無縁の人生を送ってきた俺にはよくわからない。

 女子たちのオモチャになっているだけな気がするが……。


 そう思う間にも、それぞれのフォークに載せられたれケーキが俺の口に向かって伸びてきている。


 ……って、これって。

 どちらのケーキを食べるかで優先順位が測れてしまうんじゃないか?


 ……いかん。

 アホみたいな争いに見えるが、これは女子たちにとって大きな問題ではないだろうか。

 

 ケーキを先に選ぶ=どちらの女子を優先するか選ぶということになりかねない。

 ピンチだ!


「道広くん、ぜひわたくしのケーキを食べてください♪」

「道広ぉー! あたしのケーキを食べろぉー!」


 ニコニコ笑顔で圧力を強める琴音さん。

 ストレートに命令してくる一香。


 どちらを選ぶか。

 どちらを選べばいいんだ。


 いや、ここは――どちらも選ぶ!


「あむっ!」


 俺は限界まで大きく口を開くと、ふたつのケーキを同時に口の中に収めた。

 口内で混じりあうチーズケーキとモンブランの味!

 極上の美味さを誇るケーキも、当然、混ぜると微妙な味になってしまう。


「まあ♪ 道広くん、すごいです♪」

「おおー! 道広、男気見せたー!」


 味覚的にダメージを負ったが、なんとかふたりを傷つけることなく難局を乗り切ることができた。あと、カロリーも摂りすぎた。家に帰ったら筋トレしないと。


「道広様の自己犠牲精神は目を見張るものがございますね。わたしの中で株が上がりました」


 凪咲さんからも評価が上がったようだ。


 ふう、なんかドッと疲れが出たな……。

 アホみたいなことしかしてないのに。


「ふふふっ♪ 一香さんはとても面白い方ですね♪ どうかこれからもよろしくお願いいたします♪」

「えへへ、琴音さんこそただのお嬢様って感じじゃなくて面白いです! あたしこそよろしくお願いいたしますー!」


 このよくわからない争いによってふたりの間に女同士の友情が芽生えたようだ。

 ほんと、乙女心は複雑怪奇かつ摩訶不思議である。


 そのあとは特に騒動になることなく、ふたりは学園の話などをして過ごした。


 ……話が弾むことによって俺が蚊帳の外みたいな扱いになって少し寂しかったが、それはそれでよしとしよう。



 なお、葉菜のぶんのケーキをお土産にしてくれたので、持って帰った。


 家に帰ってから葉菜に渡すと、涙を流しながらケーキを四つ平らげていた。

 やはり甘いものは人の心を豊かにしてくれる。


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