恋のライバルで友達(?)
一方で――。
「ぐぬぬぬぅうー……! あ、あたしの道広がぁぁー……はぁはぁ……」
一香が悔しげな声を漏らしながら、なぜか興奮しているようだった。
乙女心は複雑怪奇だ。というか、ちょっと怖い。ホラーである。
「道広くん♪ はい、あーん♪」
「……あ、あーん……」
俺は再びアホ面を晒して口を開ける。
ほんと、これを続けるのは精神的にキツい。
メンタルポイントがガリガリ削られていくのがわかる。
「ぐぬぬぬぬぬぬぅうぅうー……ぐぎぎぎぎ……」
そして、一香のうめき声はさらに酷いものになっていた。歯ぎしりまでしているようだ。
そちらは気になるが、今の俺がするべきことはチーズケーキを食べることである。
「……あむっ……もぐもぐもぐ……」
うむ。うまい、超絶うますぎる。
圧倒的な資本主義の力をわからされてしまう。
お金の力しゅごい。
「むぅううう~! 道広ぉおー!」
一香はフォークとケーキの載った皿を手に立ち上がる。
そして、こちらへカニさん歩きで接近してきた。
「もぐもぐ、な、なんだ、一香?」
「あたしのケーキも食べなさいよー!」
えぇえ!?
「ほら、あーん!」
一香は立ったままフォークで乱暴にモンブランを切り分けると、こちらの口元に持ってくる。
これでは『あーん』というよりエサを食べさせられる感じだ。威圧感がある。
「あたしの切り分けたケーキが食えないのか―!」
荒ぶる一香。なんだこの展開は。
ぜんぜん、ときめかない。
しかし、不安定なモンブランは今にもフォークから落ちそうになっている。
こうなると俺がやるべきことはモンブランを食べることだ。食べ物を粗末にしてはいけない。
「あむっ……もぐもぐ……」
こちらからモンブランを迎えにいくような感じで口の中に入れる。
うむ、うまい。やはり極上のマロンである。麿は満足じゃ。
「あら……」
一香の突然の行動に琴音さんは目を丸くする。
「申し訳ないですけど、道広はあたしの『彼氏係』でもありますからー」
宣戦布告。そんな四文字が浮かんだ気がした。
「まあ♪ ふふふっ♪ つまり争奪戦ということでしょうか♪」
なぜか楽しそうな笑みを浮かべる琴音さん。
「ケーキはメチャクチャおいしいし道広を助けてもらったことは恩に着るけど、あたしは道広のことを譲る気はなーい! いざ尋常に勝負ー!」
「ふふふふ♪ いいですねぇ♪ 恋のライバルというのも燃えますね♪」
いいのか? 琴音さんの思考もよくわからない。
でも、琴音さんが楽しそうだからいいか。
なんとなく、ふたりはいい友達になれる気がする。




