初対面、一香と琴音さん
※ ※ ※
放課後になった――。
俺たちは扇山家の前までやってきた。
「うわー! やっぱりすごい! 豪邸だー!」
一香は声を上げて驚いている。
俺は慣れてきつつあったが、やはり扇山家は大富豪なんだよな。
本来、俺たちが近づいていい場所ではない。
「ようこそ扇山家へ。お待ちいたしておりました」
正門から凪咲さんが出てきて深々とお辞儀をする。
「うわー、本物のメイドさんだー!」
一香はさらに驚愕の声を上げる。
というか、いちいち驚いていて小学生レベルのリアクションである。
「左様でございます。本物のメイドでございます」
「あ、あのっ、握手してもらっていいですか!?」
一香はアホだった。
ほんと、小学生レベルである。
「わたしの握手でよければ、いくらでも」
そんな一香に対して凪咲さんは大人の対応をする(年齢は俺たちより一個上なだけなのだが……)。
「そ、それじゃ、お願いします!」
「はい、どうぞ」
そして、本当に握手をする一香と凪咲さん。
なんなんだこの状況は。
「さすが道広様の御友人でございますね。この邪気のなさ。心安らぐ思いです」
そんなものだろうか。
まぁ俺たちは富も地位も権力もない庶民だからな。
清貧とはいわないが、油ぎったところはない。
「それでは、こちらへ」
凪咲さんに案内されて俺たちは屋敷の中へ入っていく。
庭園や建物内部の高級感に触れるたび、一香は「うわー、これが大富豪かー!」とか「あたしたちと住む世界が違うー!」とか「資本主義の勝利者だー!」などと歓声(?)を上げていた。
そうしている間に、応接室へ辿りついた。
「お嬢様、お客様と道広様をお連れいたしました」
「凪咲さん、お疲れ様です♪ どうぞ入っていただいてください♪」
中からは琴音さんの弾んだ声が聞こえてきた。
どうやら体調は完全回復したようだ。
「はい、それでは失礼いたします」
凪咲さんがドアを開いた。
室内では淡い普段着姿(といってもヒラヒラしていて俺からはドレスのようにしか見えないのだが)の琴音さんが立って待っていた。今回はピンクと白を基調としている。
「ひぃい!? リアルお姫様ー!?」
一香はまたしても驚愕していた。
というか、驚きすぎである。おまえはリアクション芸人か。
「ふふふ♪ お姫様ではないですよ♪ 初めまして♪ 扇山琴音です♪」
「あわわっ!? しょ、庶民の関平一香です!」
庶民って。
まぁ、琴音さんの圧倒的なお嬢様オーラを前にすると委縮してしまう気持ちはわかる。
なんで埼玉にこんなお嬢様がいるのだと驚くレベル。