お見舞い終了~健康第一~
しかし、ここで流されるままになってしまっていいのだろうか……?
確かに琴音さんは絶世の美少女だし、性格も最高だし、お金持持ちだ。
でも、まだまだお互いのことを知らなすぎではないだろうか。
そもそも俺は琴音さんをライクではなくラブと言い切れるほど好きだろうか?
なお、俺が悩んでいる間にも琴音さんの「ぎゅ~~~~~♪」は続行中である。
思考がまとまらない。脳細胞の稼働率が極端に落ちている気がする。
「お願いです♪」
「…………。……ぜ、善処させていただきます…………」
最後の最後、ギリギリのラインで踏みとどまって、どうにか言葉を振りしぼった。
「……さすが道広様です。安易に流されないその姿勢。ますますもって、お嬢様の伴侶に相応しいと存じます」
凪咲さんからの評価が上がった。
「むうぅ~~。残念ですっ」
一方で琴音さんは頬を膨らませて不満顔だ。
というか、俺への好感度が異様に高すぎて困る。
俺なんか、ただの冴えない男なんだがな……。
「それじゃ、俺はそろそろ帰ります」
「えぇっ! も、もうですかっ……?」
琴音さんが驚愕と悲しみの混じった瞳を向けてくる。
その表情には弱いが、琴音さんは病み上がりなのだ。
ここは早めに帰宅せねば。
「まだ無理しないほうがいいですよ。ゆっくり休んでください」
「う、うぅ……で、でも……」
「……ここは道広様の仰る通りでございますね。お嬢様、なによりも健康が第一でございます」
凪咲さんからも言われて、琴音さんは納得したようだ。
「……わ、わかりました。学園を二日も休んでしまいましたしね……」
俺の通う公立校と違って学費の高いお嬢様学園なのだから、もったいない。
まあ、そういう問題でもないな。
凪咲さんの言う通り健康第一である。体が資本である。心も財産である。
労働に明け暮れていた俺は、その大切さがわかっている。
「また明日来ますから」
「ありがとうございます♪」
そこで一香が琴音さんと会いたがっていることを思い出した。
「ああ、前に琴音さんが会いたがってた一香ですが……一香のほうも琴音さんと会いたがってましたよ」
「まあ♪ 本当ですか?」
「ええ」
「それでは、一香さんのご都合のよいときに来ていただけたら嬉しいです♪」
「伝えておきます。そのときは事前にスマホで伝えますよ」
「ありがとうございます♪ わあ♪ 楽しみです♪」
琴音さんと一香、ふたりが会うことでどういうことになるのか想像しにくいが……本人たちが望んでいるのならいいか。ちょっと心配な面もあるけど。
「お嬢様に御友人ができることは喜ばしいことです」
凪咲さんも肯定的なようだ。
うん。ふたりならよい友人になれるかな……。
ちょっと一香は琴音さんに対抗心みたいなものを出していたが。
この圧倒的な包容力を前にすれば、そういう気持ちにならないだろう。
琴音さんはパーフェクトな聖人お嬢様なのだから。
「それじゃ、俺はこれで」
「はい♪ 本日はありがとうございました♪」
こうして俺は琴音さんのお見舞いを終えたのであった――。
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