琴音さんのトンデモナイお願い
「まあ♪ 道広くんにわたくしの執事になっていただけるのなら、こんなに嬉しいことはありません♪」
「俺もです。あ、あと、葉菜もメイドになりたいそうで……」
「もちろん大歓迎です♪ おふたりがいつもそばにいてくださるのなら、これに勝る喜びはありません♪」
予想通りというかなんというか。
琴音さんに大歓迎してもらえた。
しかし、仕えるなら役に立たないとな。
そこで傍らに控えていた凪咲さんが口を開いた。
「おふたりなら、きっと大丈夫だと思います。これまで苦労をされていたぶん、お屋敷の誰よりもハングリー精神をお持ちだと思います。そして、世襲の者ばかりの中で新しい風を入れることは大事だと存じます。格式や旧弊というものに縛られすぎる生活がお嬢様の心を苦しめていたのだと僭越ながら推察いたします」
凪咲さんからも、そう言っていただけるのはありがたい。
その期待に応えられるような働きをしていかねば。
「で、でもっ……道広くんにはスキンシップ係も続けていただきたいですっ……」
琴音さんは泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「それは……は、はい……。」
スキンシップ係だと仕事をしている気にならないのだが……。
「スキンシップ係は道広様にしかできない唯一無二のお仕事でございます。それが疎かになっては本末転倒でございます」
凪咲さんまで加勢する。
やはりこの職務は続けることになりそうだ。
いや、まぁ、おいしい仕事内容なんだけど。
でも、いつまでもそれは情けないというか。
「み、道広くんはわたくしのスキンシップ係を続けるのは、お嫌ですか?」
琴音さんは瞳を潤ませて訊ねてきた。
「いえいえ! そんなことはないですよっ! ただ、男として情けないというか……」
「そんなことはありませんっ! 道広くんはわたくしにとっての騎士ですから♪」
な、騎士でござるか……。
さすがお嬢様。俺のような庶民とは発想が違う。
俺に騎士要素なんて微塵たりともないと思うのだが。
どちらかというと腹を空かせた浪人だ。
「そうでございます。道広様はお嬢様にとって騎士にも等しい存在なのです。お嬢様の精神の安定には道広様は必要不可欠。これからも末永くよろしくお願い申し上げます」
凪咲さんに頭まで下げられてしまう。
というか、末永くって……。
「……よ、よろしければ、その……執事ではなくて、わ、わ、わたくしと……そのっ…………こ、こここ、婚約していただくというわけにはいきませんかっ!?」
そして、琴音さんからさらにトンデモナイ過激発言が出た。
こ、婚約ぅう!?
「ちょえっ!?」
思わず「ちょっ、えっ!?」と言おうとして変な奇声を上げてしまった。
俺のような庶民どころか貧乏人と琴音さんが婚約ぅうっ!?
いやいやいやいや! 釣り合わないってレベルじゃないっ!