荒ぶる一香~妄想暴走~
「餌づけしたのはあたしのほうが先なのにー!」
俺は餌づけされていたのか……?
…………。
……ま、まぁ、否定できないか……。
「ほら、どんどん食べてね! そして、あたしへの忠誠心を高めるのだー!」
「お、おう……?」
なんか本音がダダ漏れなのだが。
というか、俺はこのまま餌づけされ続けていいのだろうか……。
疑問もあるが、せっかく作ってくれたお弁当なので美味しくいただこう。
「もぐもぐもぐもぐ」
やはり食べるって、いいもんだな。
飢えることほど悲しいものはない。
「道広の胃袋はあたしのものだー! 豪華さで負けても回数で上回るー!」
一香は闘志を燃やしていた。
そして、ランチタイム攻勢はこれで終わりではなかった。
「食後のデザートはあたしのキスー!」
俺に弁当を食べさせ終えるや一香はこちらに勢いよく顔を接近させてきた!
「うわっ!」
突然のことに、つい避けてしまう。
「……っとと! ちょっとぉ、なんで逃げるのー!?」
「い、いや、いきなり必死の形相で迫ってきたから」
「女の子の顔に対して必死の形相言うな!」
怒られてしまった。
しかし、怖かったのだから仕方ない。
「あんた彼氏係なんだから、ちゃんと役目果たしてよねー! これまであたしから受けた恩義を忘れたかー!」
「お、おう……い、いや、もちろん、忘れてないぞ」
しかし、こうなんで俺は女子たちのヌイグルミやオモチャみたいな扱いをされてしまうのだろうか。弟力が強いのだろうか? 実際には兄なのだが……。
「まったく! 興が醒めちゃった! デザートはお預けね!」
もったいないことをしてしまったかもしれないが、ほっぺたとはいえキスされることに慣れてしまうのもどうかと思う。
「もっと自分のことを大事にしたほうがいいんじゃないか?」
つい、そんな心配もしてしまう。
将来、変な男というかダメ男に引っかかったりしそうだ。
「なによー! あんたこそあたしのこと大事にしなさいよー!」
どうやら怒らせてしまったようだ。乙女心は難しいな。
「あんたのその余裕はどこから来るの? 普通、あたしほどの美少女からキスされたら喜ぶものじゃないの?」
「喜んでないわけじゃないぞ。ただ、それ以上に一香のことが心配なだけだ。将来、変なダメ男に引っかかるなよ」
「なによそれー! あんたがあたしのことを引っかけなさいよー! 目の前にエサがあるのに食べないって草食系か! むしろ植物か! 光合成してるのかー!」
荒ぶる一香。
まぁ、実際のところずっと労働に明け暮れていたので恋愛とかそういうものに対して興味を覚えないようになっていたのだ。
「まさかBLか? まさか道広はBL趣味なのかー!?」
一香が変な方向に妄想を暴走させていた。
「違うから。まぁ、ともかく、さっさと昼飯食べたほうがいいぞ」
「うぅうぅ……乙女としての自信を喪失した……いつか必ずあたしにメロメロにさせてやるー……」
暗いオーラを放ってブツブツとつぶやきながら弁当を食べる一香。
ちょっと怖い。
なにはともあれスリリングでエキセントリックでちょっとホラーなランチタイムをエンジョイした俺だった。
一香「面白かったらブクマと評価してねー!」