妹喜怒哀楽~緑茶とポテトチップス~
※※※
「お兄ちゃん! どこ行ってたの!?」
家に帰るや、腕を組んで仁王立ちした葉菜に出迎えられる。
「す、すまん。これには事情が……」
「かわいい妹をほったらかしにするほどの事情?」
「うっ……、そ、それは……」
葉菜は頬をプクッと膨らませながら怒っていた。
珍しいな。葉菜がこんなふうに子どもっぽい怒り方をするなんて。
「今日はお兄ちゃんとゆっくり過ごせると思って早く帰ってきたのに~っ!」
「す、すまん……」
どうやら妹の楽しみを奪ってしまったようだ。
まあ、『お勤め』のない貴重な夕方だからな。
「で、お兄ちゃん。どうして遅くなったの?」
「ああ、それは……一香が特売に行くのにつきあっていたというか荷物持ちというか」
「一香さんとは昨日スーパーで会ったでしょっ?」
「ああ、今日は今日で一香の家の近くで特売があったんだ。それで」
特売という言葉が出て、葉菜の目の色が変わる。
「えぇえ!? なにが特売になってたの?」
「ああ、ペットボトルとか冷凍食品とか重いもの中心だから、ちょっとうちまで運ぶとなると辛いな。あと、もうほとんど売り切れていた」
「むぅう~っ……不覚だよぅ……せっかくの特売が……」
優秀な妹である葉菜は悔しがっていた。
まだ小学生なのに思考が完全に主婦である。
「でも、昨日買い物したばかりだしな」
「うう、でも、残念だよぉ~……」
敗北感に浸る葉菜。いくら貯金があろうとも特売を逃すというのは葉菜にとって耐えがたいダメージらしい。ここは空気を変えねば。
「まあ、ともかく、昨日買ったポテトチップスでも食べてゆっくりしよう」
「あっ、うんっ! 了解だよ、お兄ちゃんっ! 今、お茶淹れるねっ!」
お茶なんて贅沢なものを普通に淹れられる経済状況になったとは感慨深い。
「じゃ、着替えてくる」
「うんっ、その間に用意しておくねっ!」
手を洗ってうがいをして部屋着に着替え、再び居間のちゃぶ台へ。
「お兄ちゃん、準備できたよっ!」
「おう」
淹れたての緑茶と袋が開けられたポテトチップス。
琴音さんのところで豪勢なスイーツをいただいているとはいえ、やはり庶民の楽しみはこういう安っぽいポテトチップスだよな。
「それじゃ、お兄ちゃん、いただきまーすっ」
「うん、いただきます」
まずは兄妹揃って緑茶を啜り、続いてポテトチップスに手を伸ばして口に運ぶ。
パリッ、パリッと小気味よい音が響く。
「うん、おいしいよぉ!」
「ああ、このジャンクな味がたまらないな」
高カロリーで栄養的には非常に偏っているのだろうが安価な値段(以前の俺たちにとっては贅沢品扱いだが)で手軽にハッピーな気分になれる。庶民の味方だ。
「おいしいねぇ、お兄ちゃんっ! ……う、うぅっ……涙出ちゃいそうっ……」
「おいおい、泣くなよ」
なんか最近の葉菜は情緒不安定気味だな……。笑顔から一転、泣きそうになっている。
まぁ、普段しっかりしているぶん感情が揺れ動いたときに脆いのかもしれない。