荷物持ち係と報酬とライバル宣言!?
※ ※ ※
「あ、その2リットルのスポーツドリンクも二本カートに入れて」
「お、おう」
制服姿で一緒にスーパーに入り、一緒に特売商品をカートに入れていく。
対象商品は冷凍食品やペットボトルなど重いものが多い。
「へへっ、やっぱりこういうときに鍛え抜かれた肉体を持つ彼氏係は頼りになるねー!」
「ああ、まぁ、これぐらい余裕だ」
ダテにこれまで肉体労働をしてきていない。
筋肉は直接的かつすぐ役に立つのがいい。
「それじゃ、そっちの冷凍チャーハンのビッグサイズもよろしくー!」
「お、おう……」
「四袋ね!」
「お、おおう……」
さすが大家族といったところだろうか。
四百グラムのチャーハンを四袋カートに入れた。
「あとは牛乳も!」
「りょ、了解」
いつもこれだけの重さをどうしてたんだろう。
そう思った俺の心が読まれたのか、すぐに一香は答えてくれる。
「いつもは弟たち動員するんだけどさー、余計なもの買わされちゃったりするからねー。だから道広が彼氏係になってくれて本っ当に助かる!」
……もうこれ彼氏係というよりも荷物持ち係みたいなものじゃないだろうか……。
でも、これまで一香にはさんざん世話になってきたわけだしな。
これぐらい朝飯前だ(夕食前だけど)。
「うん、こんなもんかな! レジへレッツゴー!」
「おう」
買ったものを段ボール箱に入れて運ぶ。
「じゃ、あたしんちまで行こっか!」
「おう。……よっと!」
さすがに重いな。
ちなみに一香の家には小学生の頃に何度か行ったことがある。
そのとき御馳走になったカレーの味は忘れられない。
なお、ここからは徒歩五分といったところだ。
「いやぁー! ほんと助かる助かる! 持つべきものは彼氏係だねー!」
一香自身も両手にレジ袋を持っている。
「そう言えば一香の家に行くのも久しぶりだな……」
「そだねー! もっと頻繁に来てくれててもよかったのにー」
労働で忙しかったし、借金とりとの対応もあったし、葉菜の面倒も見なければならなかった。
そして、一香も一香で弟や妹の世話もあったろう。
お互い、なんだかんだで忙しい身だったのだ。
「あとはうちでゆっくり……ってわけにもなかなかいかないんだよね? 少しはお礼したいけど」
「ああ、まあ、俺は気にしないぞ」
「あたしが気にする。というわけで。ちょっとストップ。立ち止まって」
「ん? どうしてだ?」
今の話の流れで、なぜ立ち止まる必要が?
その俺の疑問は――すぐにわかった。
「はい、今日の報酬ー。ちゅっ!」
「うぉおっ!?」
いきなりこちらの左頬にキスをされた!?
「へへっ。これで十分かな? 足りないっていうんなら右側にもしてあげるけど!」
「じゅ、じゅじゅじゅ、十分だ!」
むしろお釣りを出すレベル。
って、昼休みのときといい気軽にキスしてくるんだな一香は!
「言っとくけど、あたしのキスは大安売りしてるわけじゃないよ! 道広だからしてあげてるんだからね!」
「お、おう……そ、そうか……」
琴音さんといい一香といいなぜ俺の周りの女子はここまでアグレッシブなのか。
俺としてはタジタジである。ま、まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいのだが。
「ね、道広っ! 琴音さんはこんなふうにキスしてきたりするの?」
「い、いやっ、そんなことはないっ……今のところハグだけというか」
「そーなんだっ! じゃ、あたしにもまだまだチャンスはあるって感じかなー!」
ちゃ、チャンスって……。
「経済状況は負けても道広への愛は負けないっ! なんてったって年季が違うからね! 庶民代表としてお嬢様には負けられない! あたしがライバルだー!」
やはり一香は明確に琴音さんへの対抗心があるようだ。
だから、急に彼氏係だなんてものを考え出したのだろう。
「道広にはお嬢様よりもあたしのような庶民のほうが合ってるって! というかさ、あたしと琴音さん、どっちのほうが好きなの!?」
「ど、どっちって……」
いきなりそんなこと訊かれても答えられるはずがない。
というよりも優劣をつけるようなものでもないというか。
でもまぁ、琴音さんのほうがかなり優勢というか圧倒的に優勢だ。
「……ん。まぁ、まだまだ勝負は始まったばかりだかんね! 必ず最後はあたしが勝利を収める!」
なんだか一香の闘争心に火がついてるようだ。
しかし、俺としてはふたりが争うような事態にはなってほしくないのだが……。
「はい、到着~!」
そうこうしているうちに一香の家の前までやってきた。