表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/89

世界で一番大事な妹

「……ほんと、人生一寸先は闇とはいるが、俺たちの場合は一寸先が光だったな」


 すべては琴音さんたちのおかげだ。


 その琴音さんが体調を崩してしまっているのは心配だが……まぁ、回復傾向なら大丈夫だろう。

 明後日になれば見舞いにも行けるだろう。


「じゃ、お兄ちゃん、先に入るねっ!」

「おうっ」


 一番風呂は葉菜に譲る。

 というか、まだまだ葉菜は成長期。

 よく寝てよく食べるべきだ。


「もうちょっと説明書を読んでおくか……読むだけで眠くなってきそうだが……」


 俺は寝転がるとスマホの説明書を開いて操作方法を流し読みしていった。


 ………………。

 …………。

 ………。


「……お兄ちゃん、起きてっ。お風呂空いたよっ。こんなところで寝てると風邪引くよっ!」

「ん……んん? あれ……? 寝ちまってたのか……」


 瞼を開けたら、葉菜の顔。

 湯上りなので、瑞々しい。


「すまん……不覚だ……」


 ほんと説明書って、なんでこんなに読んでて頭に入ってこないんだろうか……。

 ……まぁ、スマホに関しては習うより慣れろってところかな……。


 考えてみれば昨日は俺も睡眠不足だったんだよな……。

 これで俺まで風邪を引いてしまってはよくない。

 今夜はさっさと寝よう。


「葉菜、ありがとう。それじゃ風呂入るわ」

「うんっ、お風呂の中で寝ちゃダメだよっ」

「おうっ」


 それだと溺死しかねないからな。

 サッと入って、さっさと寝よう。


 そのあとは冷水で顔を洗って目を覚ましてから風呂に入り、歯を磨き部屋に戻った。


「葉菜、まだ起きてたのか」

「うん、お兄ちゃん心配だったし」

「はは、大丈夫だって。葉菜は心配性だな」

「だって、葉菜にとってお兄ちゃんが唯一の肉親だもんっ……」


 そう言って葉菜は瞳を潤ませる。

 そんな葉菜を安心させるように――。

 頭を優しく撫でてやった。


「あぅ……お兄ちゃん……」

「いつも心配してくれて、ありがとな。葉菜が妹で本当によかったって思ってる」

「……うにゅぅ……お兄ちゃん……」


 葉菜は俺に抱きついてきた。

 いつもはしっかりものの妹だが、たまに弱気になるのだ。


 というか親が蒸発してしまったせいで、葉菜は肉親に甘えるという経験が足りていない。


 それなのに昔の俺は労働ばかりで葉菜のそばにいてやれなかった。

 だから、葉菜が入水自殺しようと思うまで追いつめられていたことに気がつけなかった。


「これから一緒の時間をもっともっと増やせるからな。だから安心してくれ」

「うんっ、うんっ……ごめんね、葉菜、弱い妹でっ……」

「謝ることなんてないぞ。俺にとっては世界で一番の最高の妹だからなっ……」


 世界でたったひとりだけの妹。

 もっともっと大事にしていかねばと思う。


 琴音さんと凪咲さんがいなかったら俺は世界で一番大事な妹を亡くしてしまうところだった。

 もう二度と葉菜に寂しい思いはさせない。


「……お兄ちゃん、今日は一緒の布団で寝ていい?」

「ああ、いいぞ」


 この年齢で一緒の布団で寝るのはどうかと思うが……でも、今日は特別だ。


 そもそも、この一年、俺はあまりにも葉菜とスキンシップをとらなすぎたかもしれない。

 葉菜も十歳になったことだし……と思って、甘えてくる葉菜を遠ざけていた面もあった。


 それが心理面によくない影響を与えていたかもしれない。

 まさかこの年齢で自殺を考えるとは思いもしなかったが……。


「えへへっ……♪ なんだか琴音さんのおかげで自分の感情を素直にお兄ちゃんに伝えられるようになったかもっ」


 なるほど。確かにこれは琴音さん効果と言えるかもしれない。

 琴音さんは俺たちにお金だけでなく、人生で大事なことを教えてくれているかもしれない。


「まあ、ほんと、琴音さんと接していると家族のような安心感があるよな」

「うんっ、琴音さんといるとお母さんと……ううん、お母さんといるとき以上に安心できるよっ」


 お嬢様ではあるのだけど、とても家庭的だ。

 まるで疑似家族を築いていっているかのような。

 ただ、いつまでも琴音さんたちに甘えているわけにもいかない気はするが……。


 まあ、今はともかく。


「寝るか」

「うんっ」


 俺は久しぶりに葉菜と一緒の布団で寝た。


葉菜「おやすみなさいっ。今日も小説を読んでいただいて、ありがとうございますっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ