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メイドさんを目指す妹

「……やっぱり家はのんびりできて落ち着くねっ」

「うむ、そうだな」


 扇山家の屋敷は快適ではあるのだが常に緊張感が拭えない。

 なにもかもが高級で場違い感を覚える。無理もないことだが。


「まあ、貯金が激増したからといって俺たちは俺たちだからな……。急に世間一般の生活レベルに上げなくていいのかもな」

「うんっ……葉菜、学校に友達もいないし、テレビとかなくても話題に困らないしっ……」


 それはそれで妹のボッチ化が進んでしまうので、兄としては複雑な気持ちだ。

 でも、今の若者ってテレビをあんまり見ないものらしいからいいのか。


「でも、ネットとかで動画見たりするのが今の若者じゃないのか?」


 そういう俺も若者なのだが。


「うーん、そうなのかもしれないけど、葉菜、お兄ちゃんとお話したり料理したり掃除したりしてるほうが楽しいしっ」


 ほんと、優秀すぎる上に家庭的な妹である。


「葉菜、将来、凪咲さんみたいなメイドさんになりたいっ!」

「メイドさんか」


 それもいいかもしれない。


 琴音さんたちに出会うまでメイドという職業が現代日本で成り立っていることすら知らなかった。

 コスプレ衣装かなんかだとしか認識していなかった。


「凪咲さんはすごく優秀なメイドさんだしな。優秀な妹である葉菜がメイドさんになるのはいいかもしれないな」

「うんっ、凪咲さん、葉菜の直接の命の恩人だしね!」


 入水した葉菜を直接引き上げたのは凪咲さんらしい。


「それじゃ、今度、凪咲さんと琴音さんに訊いてみよう。メイドさんになる方法を。というか、そのまま扇山家に仕えることができればいいな」

「うん、葉菜、琴音さんと凪咲さんのためにメイドさんとして働きたいっ!」


 うむ。いい心がけだ。


 ……というか、俺もスキンシップ係じゃなくてちゃんとした執事として働けるようになるべきだよな。このまま世話になりっぱなしではなく恩を返したい。


「よし、ぞれじゃ俺も執事を目指す……っていっても俺にできることって肉体労働ぐらいしかないわけだけど……」


 とりあえず車の免許ぐらいとらないとな。

 あとは護衛のために武道とかを学ばなければならないのだろうか。


「わぁいっ! それじゃ葉菜がメイドさんでお兄ちゃんが執事さんだねっ!」

「そうなれるといいな」


 希望すれば誰でもなれるというものでもないだろうが……。

 でも、琴音さんと凪咲さんのためになにかしらできればいいな。

 救ってもらった命だ。ふたりのために生かしたい。


「まぁ、でも、まずは勉強だな。葉菜はまだ小学生なんだしな」

「うぅ……早く成長したいよぉ……」

「ほら、よく食べたらよく寝るんだ」

「食べてすぐ寝たら太っちゃうよぉ」


 そんな会話をかわしながら俺たちは食器を片づけ、それぞれ宿題をこなした。

 

「ふぅ、今日の宿題難しかったよぉ」

「うむ、難しかったな……」


 小学生の宿題侮りがたし。

 俺は適当に終わらせて葉菜の宿題を見てやったのだが、なかなか難しかった。


 というか、俺の頭がアホすぎるのかもしれないと不安になる。

 執事どうこうの前に、まずは勉強しないと。あまりにも頭が悪くては役に立たないだろう。


 と、そこで――。

 ポケットに入れていたスマホが振動した。


「おっとと? なんだ?」


 俺はスマホを取り出し、慣れない手つきで画面を操作する。

 

「えっと、メールを受信したんだよな? それを見るためには……っと、これか」


 手間取ったもののメールを開くことに成功した。

 文面は――。


『凪咲です。お嬢様の体調でございますが、かなりよくなられました。ただ、念のため明日もお休みをさせていただきます。なので、明朝及び夕方のお勤めはお休みとなります』


 おお、わざわざ報告してくれるとは。こういうときにスマホがあると便利だな。

 俺たちはあまりにも文明と隔絶した生活を送りすぎていた。


「えっと、返信しないとな……」


 文字の入力操作が難しい!

 よくクラスの連中はあんな高速で操作できるな……。


 ほんと、同じ時代を生きているとは思えない。

 しかし、少しずつでも適応していかねば。


「そうだな……執事になるためには現代社会に適応していかねば……」

「お、お兄ちゃん、ふぁいとっ」


 そういう葉菜も機械には弱いタイプだ。

 俺たちは完全に時代遅れ兄妹なのであった。


 ともかく入力を完了。

 『了解です』と打って、返信ボタンを押す。


「ふぅ……やり遂げた」


 なんでこんな消耗しないといけないんだ……。

 しかし、まぁ、いずれ慣れるか……というか慣れないと。


「さて……あとは風呂入って歯を磨いて寝るだけだな」

「うんっ」


 ちょっと前まで風呂を沸かすこともできない経済状況だったのにな。

 それなのに、スマホなんていう文明の利器を使える日が来るとも思わなかった。


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