生徒会長の思いがけない提案
「ま、いいや。はい、今日のぶん」
「お、おう……いつもありがとう」
その台詞とともに施しを受けると、なんかヒモみたいで情けないな……。
まぁ、それはそれとして……。
「あ、えっと……弁当のことだけど……」
「なに?」
「琴音さんから十分なお金をもらって貯金もすごいことになってるから、もう大丈夫というか学食とかも使えるようになったから、わざわざ作ってもらうのは悪いというか……」
窮乏状態が解決した今、これ以上一香に弁当を作らせる負担をかけるわけにはいかない。
「ああ、そっかぁ……。でも、あたし、特に負担になってるわけじゃないよ。自分のぶんの弁当を作るついでだし」
「なら、せめて金を払わせてくれ。ああ、これまでのぶんも」
一年以上作ってもらっていたのだ。かなりの額になっているだろう。
しかし、そんな俺に対して――。
「いいって。いらない。あたしが好きでやってたことだしさ。それになんか、ここでお金もらうのって、なんか違う気がするし!」
そう言われると、そうかもしれない。
善意でやってくれてたことに対して金で解決というのは無粋だ。
借金暮らしが長かったので、借りは返さなきゃという思考が強すぎた。
「……ね、だったらさ。明日からあたしと一緒に学食で食べない?」
「えっ!?」
「ふたりぶん作るのが日課になってたから、今さらあたしのぶんだけ作るのもねー。それに学食も行きたいなーって思ってたところだから。うちの学食安いからそんなに負担ならないし!」
「で、でも……」
そんなことをしたら学園で噂になってしまうだろう。
一香は学園屈指の美少女であり生徒会長なのだ。
学園一の知名度と言っていいだろう。
「あ、なんか色々と気を使おうとしてる! そういうのいいから! あたしは道広と一緒にご飯を食べたいから食べるの!」
でも、普通、学食で一緒に男女がご飯を食べるなんてカップルぐらいしかいないだろう。
「その顔『学食で一緒に男女がご飯を食べるなんてカップルぐらいしかいない』みたいな顔だね」
なぜわかった。
……俺は思っていることが顔に出やすいのだろうか。
「じゃ、わかった!」
一香は名案とばかりに勢いよく両手をパン! と合わせる。
そして――。
「あたしたちつきあっちゃおっか!」
すごい提案をしてきた!
「ちょ、えっ……?」
冗談だろ? と応えようとする俺だったが――。
一香はジッと俺のことを真剣に見つめてくる。
まさか、本気なのか……?
「本気だよ?」
また心が読まれている。
というか、マジなのか。
「で、でも、しかし……いきなりだな」
「む。即答しないのかー」
一香は、ご機嫌斜めだ。
しかし、こんな重要なことを即答できるような俺ではない。
確かに一香は美少女ではあるし、俺もずっと世話になってきた。
しかし、恋愛感情的なものがあるかどうかとなるとわからない。
むしろ、俺の心は大幅に琴音さん寄りだ。
無言の俺を見て、一香は思案するような素振りを見せる。
そして、口を開いた。
「いきなり彼氏が無理ならさ……まずは彼氏係になってよ」
「彼氏係?」
「うん。琴音さんにはスキンシップ係としてスキンシップをとってるんでしょ? なら、あたしには彼氏係として彼氏のフリしてよ」
なんという超理論。
でも……俺は一香には多大なる恩義があるんだよな。
それに報いるためには、一香の願いをある程度叶える義務があるんじゃないだろうか。
でも、琴音さんのスキンシップ係と一香の彼氏係を兼任することになってしまう……。
それは、それでどうなんだ……。




