姉力(あねりょく)
第二章開始です
さて、学校である。
昨日の寝不足もあっていまいち集中できなかったが、授業は受けた。
琴音さんのおかげで過酷な肉体労働をしなくなって済むようになったんだから、せめて授業は真面目に受けるようにしなければ――という気持ちがあったのだ。
「……昼休みか……」
やはり昨日の精神的な疲労が残っているな……。
メシ食ったら少し寝るか……。
そんなことを思いながら裏庭に向かった。
「……というか、考えてみれば一香に弁当を作ってもらう理由がなくなってるよな……」
琴音さんのおかげで、貯金がすさまじい勢いで増えた。
なので、学食を使うだなんていうブルジョワジーな学園ライフを送ることもできるのだ。
「学食か……」
でも、贅沢はよくないな。
葉菜の将来のためにお金は貯めておかねば。
そんなことを考えていると、弁当の入った包みを持った一香がやってきた。
「いつもすまん。ありがとう」
感謝の言葉を口にして出迎える俺だが、一香は「む?」という表情をする。
そして……。
「……なんか今日の道広、女の匂いがする」
開口一番そんなことを言ってきた。
一晩中琴音さんと一緒に寝ていたので匂いが移っているのかもしれない。
自分自身ではわからないくらいなのだが……。
一香はクンクンと鼻を鳴らして俺の首筋に顔を近づけてきた。
「ちょ、な、なんだよ?」
「んー、間違いないっ!」
ドギマギする俺を無視して至近距離まで近づいた一香は、不意に顔を上げる。
「間違いないって、なにが」
「女の匂い。なにしてきたの?」
「な、なにって……」
「なにかしたでしょ?」
「し、してない」
「うそ」
俺に疑惑の眼差しを向ける一香。
な、なんだ……? これでは彼氏の浮気を疑う彼女みたいじゃないか。
俺たちはそういう関係ではないのに……。
「ほら、正直に言う。これまでお弁当いっぱい食べさせてあげてきたでしょ?」
それを言われると弱い。
琴音さんと凪咲さんも恩人だが、一香も間違いなく俺たちの命の恩人なのだ。
一香から供給されたカロリーがなければ俺は激しい肉体労働に耐えられなかっただろう。
「……わかった……正直に言う。えっと、その……琴音さんの屋敷に泊まった。でも、就寝中とか寝起きに抱きつかれたりしただけで、それ以上のことはなにもしてない……というか俺のほうから積極的になにかをするということはない。ありえない」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。それが勤めだから」
俺の目をじっと見てくる一香。
鋭い眼差し。
いつもは頼りになる姉御肌なのだが、こういうふうに睨まれると、ちょっと怖い。
だが、俺は視線を逸らすことなく一香の瞳を直視し続けた。
「……うん。嘘は言ってないみたいだね」
そんなことがわかるのか。
「うち、弟と妹がいっぱいいるから、嘘を見抜くのは得意なんだよね」
「そういうものなのか」
「うん。そういうもの」
というか俺は弟や妹と同じ扱いか。
姉のいる弟の気持ちがちょっとわかった気がする。
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