朝のお見送り~お泊り勤務終了~
※ ※ ※
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「「「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」」」
凪咲さんに続いて、メイドと執事たちが一斉に琴音さんに挨拶をする。
みんな揃っての朝のお見送り。
今日は俺だけでなく葉菜も列に並んでいる。
「みなさん、お見送りありがとうございます♪ 道広くんと葉菜ちゃんもありがとうございます♪」
「いえいえ、昨日は色々とありがとうございました」
「とんでもないですっ、美味しいご飯と露天風呂ありがとうございましたっ」
俺たちは逆に恐縮して応える。
ほんと、俺たちが感謝されるなんてアベコベだよな……。
まぁ、昨晩と今朝に関しては命が危なかったが(葉菜は生命の危機で俺は社会的生命の危機)。
結果オーライなので、よしとしよう。役得でもあったしな。
「またいつでもお泊まりしてくださいね♪」
昨晩の俺たちの危機を知らない琴音さんは屈託なく笑う。
「りょ、了解です」
「は、はいっ」
俺たちは引きつった笑みを浮かべながら応えた。
車中の琴音さんは特に違和感を覚えることはなかったようだった。
「それでは行ってまいりますね♪」
窓から改めて手を振る琴音さん。
黒塗りの車はゆっくりと進んでいって門をくぐっていった。
「うぅ……なんだか半日の間に色々なことがありすぎたよぉ……」
ほんと、密度の濃い半日だった。天国と地獄を味わった。
極楽も行き過ぎれば死に至ることを知った。
でも、琴音さんのおっぱい柔らかかったなぁ……。
素晴らしいおっぱいだった……。おっぱいがいっぱい……。
……って、いかんいかん。煩悩は振り払わねば!
こんな煩悩を抱いてはこれから職務をこなしていけない。
俺はヌイグルミだ。俺は人間じゃない! でも、あんなおっぱいを押しつけられたら……。
「お兄ちゃん大丈夫? なんだか壮絶な葛藤をしているような顔をしてるけど」
「あ、ああ、大丈夫だ……」
葉菜にはすべてお見通しだよな……。
まさに以心伝心。
俺たちは両親が蒸発しているので、兄妹の絆が一般的な兄と妹とは比べものにならないほど強いのだ。考えることが、すぐにわかってしまう。
「色々あったけど、お兄ちゃんが普段どんなお勤めをしているのかわかってよかったよ!」
「あ、ああ。たいししたことしてないだろ」
基本的に、ただ琴音さんと一緒に過ごしてスキンシップをとっているだけだからな……。
昔やっていた超絶肉体労働とは比べものにならないぐらい楽だ。
精神的に消耗する面はないでもないが、それは贅沢な悩みだな。
世の中の男子たちが(女子もか)、こんなお勤めがあるならやりたいと思うだろう。
ただ、理性を保ち続けることは大変なのだ。
毎日毎日あんなに抱きしめられておっぱいを押しつけられて……。
「お兄ちゃん……変なこと考えてるでしょ?」
「い、いやっ、なにも考えてない! あい・あむ・ぬいぐるみ!」
ジト目で見てくる葉菜に俺は慌てて応える。
まったく俺の脳内は筒抜けだな……。さすが優秀な我が妹。
そんな俺たちに近づく影ひとつ。
「泊まりがけのお勤めご苦労様でございました」
凪咲さんだ。
俺たちにお礼の言葉を述べて頭を下げてくる。
「あ、いえいえっ! こちらこそありがとうございました!」
「と、とんでもないですっ! 美味しいご飯とお風呂ありがとうございましたっ!」
俺たちは同時に慌てて感謝の言葉を返して頭を下げ返した。
「お嬢様が元気になられたのは本当におふたりのおかげでございます。お嬢様はずっと不眠に悩まされていたのですが、おふたりとスキンシップをとるようになってから劇的に改善いたしました」
そうだったのか。昨日の熟睡っぷりからは考えられないな……。
「眠れずにお屋敷を夜中に彷徨い歩くこともございましたし学園を休むこともしばしばでございました。それが、おふたりと出会ってから健やかになられて……メイド長として、こんなに嬉しいことはございません。改めて心より感謝申し上げます」
そう言って今度は深々と頭を下げた。
「いえいえ! 俺たちもほんと感謝してもしきれないというか!」
「そうですっ! 葉菜の命の恩人ですしっ! え、えぇとっ……! あのときは本当に助けていただきありがとうございました! 琴音さんと凪咲さんがいなかったら、葉菜……」
「いえ、当然のことをしたまででございます」
琴音さんといい凪咲さんといい聖人すぎる……。
ありがたや、ありがたや……。
「これからもお嬢様のよきご友人として末永くつきあってくださいませ」
「「こ、こちらこそっ!」」
俺たちは兄妹らしくハモりながら応えるのだった。
琴音「この話で第一章終了です♪ 評価・ブックマークしていただきありがとうございます♪ 心より感謝申し上げます♪ 今後とも応援していただけたら幸いです♪」




