兄妹の時間
「葉菜、帰ったぞー」
「あ、お兄ちゃん! 今日もお仕事お疲れ様ー!」
台所に行くとエプロン姿の葉菜がオタマを持って味噌汁を作っているところだった。
やはり、味噌汁の匂いは心を落ち着けてくれるな……。
ついこの間までは電気と水道を止められて味噌を買う金すらなかったのだが。
「ほんと、夢みたいだな……」
「……うん……葉菜もいまだに信じられないよ……」
地獄で仏とはこのことだな。
実際、琴音さんと凪咲さんがいなかったら葉菜は死んでいた。
というか、俺も死んでいたかもしれない。妹が俺にとって唯一の心の支えだったからだ。
琴音さんと凪咲さんは俺たち兄妹にとって命の恩人だ。
「ともかく朝ご飯食べて学業もがんばらないとな」
「うん! そうだね!」
俺たちは兄妹水入らずの朝食(ご飯・味噌汁・目玉焼き・ウインナーという以前からは考えられない豪華さだ)をとった。
琴音さんと凪咲さんから扇山家で朝食をとるように勧められていたが、それは遠慮している。
やはり、兄妹一緒の時間も大切にしたい。
「それにしても葉菜、また料理の腕が上がったんじゃないのか?」
「えへへ♪ そんなことないよぉ♪ 食材がちゃんと買えるようになったからだし」
まぁ、昔は味噌汁に具が入っていないことすらザラだったしな。
極貧生活が、あまりにも長すぎた。
「ほんと、美味いな……」
「うん、美味しいね……」
あまりの美味さに涙が滲み出てくる。
というより、こうして生活していける現在に対して、感極まる。
それだけ俺たちは追い詰められていたのだ。
ともあれ俺たちは朝食をとり、学校へ行く準備をする。
俺は高校へ。葉菜は中学へ。ちなみに昼ごはんはおにぎりふたつである(具は昆布)。
ちなみに去年は労働に明け暮れて、学校へはほとんど行けていなかった。
「それじゃ、葉菜。気をつけてな」
「うん! お兄ちゃんもね!」
ボロ家を出て途中まで一緒に歩き、別れた。
お互いに学校が徒歩圏内というのは数少ない利点だ。
まぁ、それゆえに地元で俺らが貧乏であることは知れ渡っているというデメリットはあるのだが……。
「それなのに琴音さんたちは助けてくれたんだからな……」
俺たちのことは調べればすぐにわかったはずだ。
それでも、あえて俺たちに救いの手を差し伸べてくれた。
本当に感謝しかない。
「ともかく俺の役目をしっかりとこなさないとな」
といっても、俺から積極的にやれることはないというかなんというか……。「スキンシップ係」になってから、ただひたすら受動的に抱きしめられたり頬ずりされりだけだったもんな。
「ううむ……」
今さらながらこんなことで大金をもらっていることが信じがたい。
というか、こんな幸運がいつまでも続くと思わないほうがいい。
あまりにも美味しい話すぎる。
「まあ、考えても仕方がないか……」
ともかく学業に集中して、また夕方に扇山家で「お勤め」をする。
今はその日常を繰り返すしかない。