夜の勉強会
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黒塗りの高級車で自宅へ戻った俺たちは着替えや翌日のための学生服、教科書などを用意して、再び扇山家へ――。
今度は琴音さんの私室に案内された。
「くつろいでくださいね♪」
琴音さんの私室はこれまた豪華すぎる洋間で居心地が悪い。
ソファに並んで座った俺たちは、借りてきた猫のようになってしまう。
というか、ほんと、ソファも調度品もテレビもひと目見て高額なものだと感じる。
こんな環境でくつろぐのは難しい。
「宿題などは出ていらっしゃらないですか?」
カチコチに固まっている俺たちに琴音さんが訊ねてきた。
それに葉菜が応える。
「あっ、で、出てますっ!」
「それでは勉強会をいたしましょうか♪ わたくしも予習をしようと思っていたので」
なにかやることがあるほうが気も紛れるな。
それがいい。まぁ、俺は労働が忙しくて勉強は最低限しかやってないので少し苦痛ではあるが。
でも、葉菜にはしっかりと勉強をさせてやりたい。
というわけで、琴音さんの部屋で勉強会が始まった。
凪咲さんが紅茶を持ってきてくれて、リラックスしながらの勉強タイムである。
「……うーん」
優秀な我が妹ではあるが、数学は苦手な傾向にある。
最初のほうはスラスラと問題を解いていたが、筆が止まって唸った。
「わからないところがあったら遠慮なく訊いてくださいね♪」
琴音さんは笑みを浮かべながら葉菜に促す。
「えっ……ええと……そ、それじゃあ……こ、ここっ……お、お願いしますっ……」
葉菜はオズオズと教科書の問題文を見せる。
琴音さんは葉菜に身体を寄せると教科書とノートを覗きこんだ。
「ああ、これは――」
琴音さんは笑みを深めると、聞いていて惚れ惚れとするようなわかりやすい説明の仕方で解説していった。
「な、なるほどですっ……すごい、わかりやすいですっ……!」
葉菜は目を丸くする。
さすが琴音さん。容姿だけでなく頭までよい。
「お役に立ててよかったです♪」
表情を綻ばせる姿は慈愛に満ちている。
ただのスキンシップ大好きお嬢様ではないのだ。
妹の勉強まで面倒を見てもらえるんだから、兄としてこんなにありがたいことはない。
今の問題は俺でもわかったけど、ここまでわかりやすく説明する自信はない。
優しくて頭までよいのだから、最高のお嬢様だ。
そのあとも、葉菜がわからないところをときどき訊ね、琴音さんがそれをわかりやすく解説するということを繰り返し――充実した勉強会の時間は過ぎていったのだった。
いいものだな、妹が成長していく姿を見るのは。




