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扇山家の露天風呂

「では、こちらへ」


 凪咲さんはあとから入ってきたメイドさんに台車を任せると、俺たちを先導するように前を歩いていく。


「ふふ♪ わくわくいたしますね♪」

「ど、どきどきだよぅ……」


 胸を弾ませる琴音さん。

 緊張した様子の葉菜。


 最後尾を歩く俺は、いまだに現実感がない。

 やっぱりこれは夢じゃないだろうか。

 こんな都合のよいことが起こるなんて、宝くじに当たるより確率的にありえなさそうだ。


 ベタではあるが自らの頬を抓ってみた。

 痛い。……本当に、夢ではないのか……。


「こちらになります」


 屋敷から庭園を囲むように張り巡らされた廊下を進み――突き当たった場所は脱衣所だった。もしかしなくても服を脱ぐ場所である。


 しかも、ちゃんと男女別に分かれている。暖簾もかかっている。

 青の生地に白字で『男』、赤の生地に白字で『女』。


 本当に、テレビで出てくるような超高級旅館のようだな……。

 テレビ自体は遠い昔に売ってしまったので、ずっと見ていなかったけど……。


「それでは、道広くん♪ のちほど♪」

「は、はい」


 女性陣三人が赤の暖簾をくぐり、俺は青の暖簾へ向かった。

 脱衣所も(ひのき)かなにか使っているのか高級感溢れていて、扇山家の底なしの財力を感じる。

 ほんと、どれだけ金持ちなのだろう。


 なお、俺のために純白のタオル大小が用意されていた。

 なんかタオルすら高級感がある。


 うちにある安っぽい(実際めちゃくちゃ安い上にボロボロになるまで使い続けている)タオルと次元が違う。脱いだ服を入れる竹籠まで芸術品みたいだ。


 俺のような貧乏の塊のような存在が触れることは畏れ多いのだが、服を脱いで籠の中に入れる。そして、タオルで股間を隠しながらガラス戸をスライドさせて開けた。


 そこは大理石で(しつら)えた体と頭を洗うスペースとなっており、蛇口の前には木製の椅子と桶が用意されていた。


 さらに向こうにはもうひとつガラス戸があり、その向こうが露天風呂エリアとなっているようだ。


「……本当に高級旅館みたいだな……」


 その高級旅館とやらに俺は泊まったことはないのだが……。

 そもそも普通に旅行した記憶すらない。


 居心地がよすぎてかえって居心地が悪くなるという奇妙な感覚を覚えつつ、高級感溢れるシャンプーで髪を洗い、高級感匂い立つボディソープを高級感あるタオルにかけて泡立て、心身を清めていった。高級感のオンパレードで畏れ多い。


「さて、次はいよいよ……入浴か」


 緊張感を覚えながら、露天風呂へ通じるガラス戸を開けた。


 視界に飛び込んできたのは様々な岩によって形作られた豪奢(ごうしゃ)な和風露天風呂。

 ゆうに十人は入れそうだ。


 湧出口からは白く濁った湯がこんこんと湧き出ており湯の表面を揺らしている。

 まさか温泉なのだろうか?


 なお、周りには木製の囲いがあり、さらにその向こうには竹が無数に生えている。

 風が吹き笹が揺れ、さわさわと心地よい音を立てた。


「すごいな……」


 自宅にこんな露天風呂があるとは。

 ほんと、テレビで見た高級旅館みたいだ。いや、それを超えている。


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