パンツマスターからは逃げられない
「くそう。みんな、そんなにパンツを被るのがイヤなのかよ……」
独りでパーティ拠点に取り残されたソフは、泣きそうになりながら床に叩き付けられたパンツを回収していた。
当たり前の事――誰だってパンツを頭にかぶるのは嫌である――をブツブツと言いながら、風呂に入り、洗濯物を町娘メイドに任せ、その日はふて寝した。
「新しい仲間を探さないと……」
ソフは支援職である。
ソロでもやってやれない事はないが、パーティメンバーがいた方が強い。
だから、自分と組んでくれる新しい仲間を探し求め、冒険者ギルドに向かった。
「え……? パーティ募集から、全拒否? 顔も合わせてないうちから?」
「仕方が無いだろう。普通の冒険者はな、パンツを被りたくないんだ。パンツは、履くものだからな」
パーティ募集は、だいたい、いつもやっていた。
ソフは特に条件を付けずに募集に対し参加申請をしたが、その全てから参加拒否という結果を突きつけられる。
受付のオッサンはそんなソフに厳しい現実を突きつけるが、ソフはその言葉が頭に入って来ないほど、ショックを受けていた。
「ま、ド新人あたりを騙せば何とかなるかもしれんが、長くは続かんだろうな。諦メロン」
「そんな……パンツを被るだけなんだぞ!?」
「だから、それがイヤなんだよ」
「くっ! ちっぽけなプライドに縋りついて、上を目指すことを諦めるだなんて!」
ソフは失意のまま、冒険者ギルドを出ていくのだった。
知り合いの冒険者に話をしてみたが、彼らもソフが仲間に出来そうな者に心当たりが無かった。
彼らは口を揃え「パンツをかぶってもいい奴は知らん」と答えていた。
「仲間がいない支援職なんて、カツの無いかつ丼じゃないか」
泣きそうな、情けない顔でトボトボと歩くソフ。
仲間が必要なのに、そのアテが全く無い。
いっそ、冒険者を辞めてしまおうかと、そんな考えさえ浮かんでいた。頭のパンツもへみょっとしている。
だが、そんな彼に運命の出会いが訪れる。
「ひったくりだ! 誰か、捕まえてくれ!」
ソフの耳に、そんな声がどこかから聞こえた。
あたりを見れば、薄汚れてボロボロの服を着た10歳ぐらいの男の子が、その格好に不似合いな立派な鞄を抱え、走っている。
ソフはその男の子がひったくりなのだろうと判断し、すぐにその子を捕まえた。
バフにより圧倒的な身体能力を持つ『パンツマスター』からは逃げられないのだ。
この出会いが、ソフの運命を大きく変える事になる。