ソフ=ラン、仲間に逃げられる
――その者、金色のパンツを被り、天と地の狭間を統べるであろう――
「なぜだ!? みんな、いきなりパーティを抜けるだなんて! どうしてなんだよ!!」
Aランク冒険者パーティ『絶対なる白』のパーティリーダー『ソフ=ラン』。
彼は今、窮地に立たされていた。
彼らは今日、ドラゴン討伐という大冒険を終えてパーティの拠点に帰って来た。
大仕事を終えたばかりなので、しばらくゆっくりできると思っていたソフであったが、帰ってきて早々、パーティメンバー全員からパーティ離脱を告げられたのだ。
これは事実上、リーダーであるソフの追放のようなものだった。
「冒険者稼業は上手くいっているじゃないか! 何が不満なんだ!?」
『絶対なる白』は、町の看板とも言える有力パーティである。
パーティ運営には全く問題が無く、熟すクエストは順調にキャリアアップをしている。このままいけば、あと1年ほどで最上位であるSランクに到達するだろうとソフは考えていた。
パーティメンバー間の仲も良好で、リーダーであるソフは圧倒的な支援スキルで味方を強化するパーティの要だ。
彼は、自身が追放される理由をなに一つ思いつかなかった。
「何が不満か、だって?」
ソフの言葉に、敵の攻撃を一身に集め味方を守る重騎士の『アリ=エール』が憤りを感じさせる口調で前に出た。
彼はその役職が良く似合うガタイのいい大男で、身長175㎝のソフより頭一つは体が大きい。
いかにも歴戦の騎士といった風格の、野獣のような顔を歪ませた彼は、頭に手をやり、被っていた物を地面に叩きつけた。
「もう、パンツを被りたくないからだよ!!」
「何が『パンツマスター』だよ! 強いスキルなのは分かるけど、なんでパンツを被らなきゃいけないんだ!!」
「近くを通る子供に指をさされるのよ! 「ままー、あのおねーちゃん、なんでパンツかぶってるの?」って言われるの! それで母親には「しっ! 見ちゃいけません」なんて言われるのよ! もう嫌!!」
「……パンツは履くもの」
回復術士の『ナノック=トップ』、エルフで弓使いの『サン=スター』、遊撃のナイフ使い『ゼロ=アタック』。
彼に続き、他の仲間達も被っていたパンツを脱ぐと、地面に叩きつけた。
そして彼らは、これまで溜め込んでいた不満を口にする。
彼らは、その常識と羞恥心から、もうパンツを頭に被りたくなかったのである。
『パンツマスター』。
それが支援職であるソフのユニークジョブだ。
彼は頭にパンツを被った仲間の能力をほぼノーコストで3倍まで引き上げる、壊れ性能のスキルを持っていたのだ。
それ以外にも様々なスキルを持つ『パンツマスター』だが、基本的にはこの能力向上スキルひとつで『絶対なる白』をAランクまで引き上げていた。
なお、普段からパンツを被っていないとスキルの効果が低減するので、時間の許す限り、彼らは普段からパンツを被っている必要があったのである。
「そういう訳だ。
いくら強力なスキルでも、これ以上そんなスキルの世話になりたくない。俺たちは、パーティを抜けさせてもらう。
行くぞ、みんな」
「……今まで世話になった」
「ここまで来れたのは貴方のおかげです。そこは、感謝していますよ」
「ん」
そうしてソフは一人、『絶対なる白』に取り残されたのだった。