幼馴染みがよく転ぶので俺がクッションになってあげようと思います
興味を持っていただきありがとうございます。
突然だが聞いて欲しい。
高校二年生の幼なじみの汐月三美という濡羽色の美少女がいるんだが、そいつがよく転ぶ。
あぁ、三美は『汐月』と呼ばないと怪訝を損ねるんだ。
『三美』って名前が嫌いなんだと、昔も言ってたな〜可愛いのに。
昔から膝を擦り剥いて泣いて、見てるこっちも苦しい。
いつもクールぶっているんだけど転ぶし、必ず転ぶし、絶対転ぶ。
本を読んでいるが、内容は『転ばない方法』だったりと大分抜けてる。
整理された道路でも、見えない石か何かに躓くかのように、前のめりになって倒れるんだ。
そうだな、ざっくり一日に三回は転ぶ。
運が良ければ一回で済むが、少なくとも一回は必ず転ぶ。
外なら膝を擦り剥く以外に体のどこかを痛めてしまったり、最悪骨折、なんてこともあるかもしれない。
いや!
それは外以外でも人と人が接触したら容易に起こりうる……‼︎
そしてつい昨日……。
三美は危うく階段から落ちそうになった。
これは由々しき自体だ‼︎
保たれていた均衡も崩れ、命に関わって来た。
さて、男子諸君。
君達ならどうする。
ちなみに俺は三美のクッションになろうと思ってだな、その、今。
「最低……!」
バチン!
関係を絶たれた所だ。
笑えない。
笑えないぞ……!
今ありのまま起こったことを話すぜ……⁉︎
俺はまず学校へ行こうと家を出る……すると横に住む三美が丁度同じタイミングで家を出てきた……俺たちは昔からの仲もあって一緒に登下校をするだろ……? そして登校中、俺がいつ三美のクッション役になるべきか、って今か今かと構えてたんだ…………そしたら来た!
三美の前のめりに倒れる体、引きつった顔、そして段々と迫る硬いアスファルト。
そんなの痛いに決まってるだろ⁉︎
俺はサッカーで習得したスライディングの要領で飛び込んだ。
だが、これは想定な……ゴホッ‼︎ ゴホッ‼︎
想定内のことが起きた……。
あ、間違えた。
まあいいや。
想定外なことに俺はクッション役でありながら仰向けに飛び込んでしまったのだ‼︎
(ありがとうございますっ‼︎)
時に、
三美はデカイ(迫真)。
その、あれだ。
……マシュマロ。
……爆弾……?
マシュマロ爆弾!
三美のマシュマロ爆弾が俺の顔に……。
ここまでで十分だろう……説明は不要だ……。
そして、
『最低……!』
ということになった訳だ。
これで幼馴染みという名の三美にくっつく金魚のフンと言うただの重荷になった俺は様々な目を向けられる。
類を呼んだ友からは英雄扱いされ、女からは侮蔑、軽蔑、罵詈雑言の嵐と噴火と地殻変動。
どうもこの時をもって世界が終わりました。
先生からは呼び出され、停学を覚悟したが特に何も言われなかった。
軽蔑の視線はいくつか向けれていたがその中で唯一、若い体育教師の松田がコソコソと「どうだったか⁉︎」などと聞いて来たので居ないものとして扱った。
バレたら教員生活危うくなるぞ松田……。
担任の加奈子さんからはため息を三十回くらい吐かれたが、その後の「授業に復帰しろ」とだけ言って無事終わった。
いやぁ、何も無かったね。
今日も平穏な一日だ。
空が綺麗だし、三美のパンツも青……え?
職員室から出て階段を上っている際に窓を見た空と、振り返って上を見た時に三美のスカートが風で浮いてもう一つの青空が見えた。
見えてるラッキー。
じゃなくて!
いや、ラッキー‼︎
写真写真……ん?
あ。
「きはる……見た……?」
「見たない」
『見た』と『見てない』が混ざってまるで俺が三美のパンツを見たくないって言ってみたいになってしまったぁ‼︎
やっちまったぁ……!
『きはる』って言うのは俺の名前を少し変えるとそうなる。
坂出清春って言うんだが『坂(階段)で清い春、(パンツ)を見る』って言うのが由来なんだな〜って悟った。
「そう…………」
三美は少し膨れて、階段を全て上りきった先で曲がった。
俺はその間も瞬きをせずに姿勢を低く保ったが桃源郷は見えなかった。
あの水色の空を、俺はもう一度……。
って映画を見てみるか。
多分俺が主役だと思う。
___
教室に戻って、無くなっていそうな俺の机と椅子が置いてあって小さな喜びを噛み締めた。
授業中、マシュマロ爆弾と水色の空が頭から離れなくて三美を見つめていると目があった。
三美は優等生で中々授業中視線が重なるなんて起きないのにそれが起きた。
三美はモジモジしながら頬の色を変えて視線を何度も逸らしたり合わせたり……。
逸らして再び合う視線にいちいちドキドキするんだけど……?
やめてくれない?
こっちは真面目に授業を受けているんだけど。
やれやれ、これだから不真面目な奴は……。
しかし三美の奴、まだモジモジしてトイレか?
「(先生に)言ってやろうか?」
三美はコクリと頷く。
よしわかった任せとけ。
「先生〜」
「なんですか? 坂出さん」
「三美がトイレ行きたいらしいです。なので一緒に多目的トイレに行って来ます」
「バッ‼︎ 違うわよ何言ってんの‼︎」
「え? 違うのか?」
「当たり前だろうがぁ‼︎ 前から好きだったって言うか迷ってたんだよアホ気付けバカ‼︎」
「「「え?」」」
「ん?」
しばしの沈黙。
衝撃波というものを体感した気がする。
さながらソニックブームだ。
そんな音速で移動するアレじゃないけども。
三美は顔を真っ赤にして頭を抱えて机にキスしている所だ。
俺としてくれ。
耳まで真っ赤な三美……ダジャレじゃないぞ?
可愛いなぁ。
「うん」
俺は沈黙を破った。
「やっぱり多目的トイレ行って来ますね先生。僕たち幸せな家庭を築くので結婚式には招待状を届けておきますよ。ではまた」
「ばかぁ……………」
教室を出たら速攻で三美が転んで俺が『カバー』に入った。
仕方ない奴め。
危なっかしくて放って置けないんだよ。
「……いや、ついて来るな!」
バチン!
お決まりのように左の頬に痛みが走ったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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