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氷の魔女と○○の子  作者: 白い梟
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下. 星の導き


「コーリー!どこなの!ったくもう…」


机の下、カーテンの裏、壺の中。

あらゆる場所を探しても見つからない。


「…コーリー!…もう赤子の頃の方が大人しくて世話をしやすかったのに」


気づけばあれから三年も経っていた。


あの頃の私はこうなることを考えていただろうか?

否、無計画だ。


それはそうと拾ってきてすぐに赤子に必要なものを集めようした。

が、本棚にあるのは魔導書ばかりで子育て本などあるはずがない。

人間の村で紛れて子育てについて聞き出したりする恥も惜しくはないがそもそも子育ての為に必要な道具を買うためのお金がない。


そのことに気づいた私は自分の無計画さに自分で失望し、今までで一番大きなため息をついたことを今でも覚えている。


一文無し、といえばそうだがこれには理由がある。

元々二百年引き篭もっていた私が持っていた金貨は当時のもの。しかし、現在は金貨ではなく銅貨の流通が通常となり買い物が出来ないのだ。

それを知っていた私は風邪薬を作って質屋で売ることで解決した。


何故知っているのか。

それは私の魔法で下見をしていたからだ。


《浮遊する氷の目《フロート・オブ・アイス・アイ》》。


それは自分の目を氷で複製したもので視界を共有し見ることができる魔法なのだが、それを人間の村まで飛ばして見たのだ。


その魔法で事前に調べ尽くして得意な薬作りで風邪薬を作って、苦手な幻術魔法で腕を偽装し、あまり着たくない庶民の服を着て、質屋で風邪薬を売ってお金を作り、魔法では作れない山羊乳や食べ物を買い込んだ。

食品はあの森の気候ならば数週間は余裕で保つだろうと出来るだけ多く。


買い込んでいるところを心配した何処かの村娘_____齢四十半ばほど___が子育ての為のメモを親切に渡してくれたが、屈辱的な思いを隠してそれを受け取った。

通常だったなら私は受け取らなかっただろう。

しかし、あの黄道十二宮星図ホロスコープが"メモを笑顔で受け取ること"と書いてあったのでそれを実行したにすぎない。


あのどこかの村娘は子育てに戸惑う若い女人とでも思っているのだろう。

私の正体を知っていたのなら石でも投げつけただろうに。


そんな村娘のメモのお陰__認めたくはない__か、私の魔法で作ったものも含めて子育て道具は一式揃えた。


と、安心したのも束の間。

メモの通りに世話していたらすくすく子供は育った。


予想以上に元気に。


(メモに仕付けの仕方など書いて無かったんだから。親の顔も知らない私に子育てなんて出来るはずがないのに)


そう地面に伏せっていると聞き覚えのある声が聞こえた。


「ましょー!」

「…」


顔を上げると無垢なあの子供の顔。

額には忌子の証でもあり、まじないである太陽の痣模様がある。


そして再び鳴く。「ましょー!」と。


「コーリー。師匠か魔女かママかはっきり間違えて頂戴。魔性ではないでしょう?」

「こーりー」

「それは貴方の名前よ。角有りコーリーの子。早く寝なさい。直ぐにベッドから逃げるんだから」


魔女はコーリーと呼ぶ忌子を抱き抱えると小高いベッドに運ぶ。魔女の部屋の一端に設けられたコーリーのベッドだがそこだけ物の雰囲気がガラリと違う。


「お話はしてくれないの?」

「…ああ、昨日新しいお話考えるって約束だったわね」


元々御伽話を本棚に置いていなかった魔女は昨日寝る前の読み聞かせに話していた物語を読み尽くし、新しいお話が聞きたいとグズるコーリーにそう言ったのだ。

すっかり忘れていた、また明日は通用しない。


「じゃあ、私の友達のお話をしましょうか」


そう言って魔女は語り出した。


それは一人の幼い少女の話だった。










生まれた頃から少女は呪われていた。

髪は親に似ない銀髪に碧眼。

肌は死人のように冷たい。


触るものは全てが凍りついた。


母親は自分が生まれた時に死に、父はそんな異端である私を放置した。


家族見放された少女が村から見放されるのは簡単だった。


そんな中で少女は村はずれに住む老婆に出会う。


話し相手になってくれる老婆に少女は喜び、毎日のように通うようになる。

ちゃんとした言葉すら知らなかった少女は老婆の家の本を借りては読むことである程度の知識を身につけていく。


ある日の夜。


少女は知らない男共に連れてかれた。

男共は馬鹿なことに父親の目の前で誘拐した。

少女は父親に助けを求めた。

しかし、父親は背を向けて酒を飲むだけ。一度も振り返ってはくれなかった。


少女は多くの女性たちと縄で繋がれ、細すぎる足首には大きく重たい足枷が別の足枷と、縄とは別に鎖で繋がれた。


歩く最中、罪人のように連れて行かれる女たちに人間は石を投げつけた。石だけでなく手に持ったものは全て。


連れて行かれた先で少女は十字に組まれた大きな丸太に手足を縛り付けられた。


その横で前や後ろを歩いていた女たちが焼かれ、悲鳴を上げていた。

そして最後まで叫んでいた。


「魔女じゃない」と。


少女は老婆の家で読んだ物語の悪役の魔女を思い出す。その最期を。


少女の前に大工道具のノコギリと呼ばれる物を持った大きな男が現れた。

その後に現れた別の男たちが少女の体を押さえ、腕を押さえつける。


そして大きな男はそのノコギリを少女の肩にめり込ませると、丁寧に切断し始めた。


それはまるで貴族に捧げる高級な木材を切断するかの如く。


後に聞いた話だが…少女の腕は上位貴族の鑑賞用剥製として裏市に売られていたらしい。


いっそ一瞬の痛みで終わらせてくれればいいものを、じっくりとじっくりと。

少女の体に人間の憎悪、恐怖を植え付けるには十分すぎた。


触ったものだけが凍ると勘違いしていた大人たちは腕を切り終えると少女を冬の森に捨てた。


そして少女は復讐を決心した。





長い長い月日が流れ。


成人した彼女は魔女狩りをする様に命を下した王、貴族、兵を相手に復讐をするために彼女は再び王都に戻る。


彼女の存在に気づいた王国は直ぐ様刃を向けた。

しかし彼女は氷の魔法を使って立ち向かう軍を壊滅させる。


彼女の歩いた後には白い道が出来ていたという。


街中を一直線に、王城の王のいる寝室にまで足を踏み込む。


血相を青白くする王の両腕を引きちぎった後、彼女は言う。


北の森を私の大地とし、人間と魔女の間に絶対不可侵の条約を結べ。

でなければお前が私達にしてきた仕打ちを王族とやらに後世まで祟ってやる。


なに、人間と違って魔女は約束は守るさ、魔女の祟りは確実だ。


白い髭を震わせながら口頭で認める王に魔女はその言質を羊皮紙の契約書に書き記す。


王は過ちを歯を食いしばりながらも認め、その後条約は王国に公表されました。

そうして彼女北の森に住みましたとさ。







「お終い」


ふとあやしていたコーリーを見るとすっかり夢の中にいる。

魔女は少し微笑むと乱れた布をかけ直す。


そして「おやすみ」と一言額にキスをすると立ち去る。


「その人はどうなったの?」


コーリーが起きたのかそう問いかける。

魔女は額は起きちゃうかと考えながらもそのコーリーの問いに答える。


「さぁ…?きっと森で彼女なりに暮らしてるんじゃないかしら」


魔女はもう一度コーリーの額を撫でると、コーリーは虚な目を閉じて再び眠りに落ちる。

瞳によく似たオレンジ色の髪をかき分ければ、小さな角が生えている。

新芽から比べれば小枝ほどまでに成長している。


「おやすみ、コーリー。いい夢を」


そう束ねた彼女の髪からは一雫の水滴が落ちていった。









今日中に完結するかしら?!

次回は今日です!

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