ファタイトの街2
その建物は不思議なオーラを纏っていた。他の建物より少し背が高く作られ、レンガが少し暗い色をしていた。その他は特に変わった様子もなかった。
街のお偉いさんらしいから、憲兵でも立っているのかと思ったが、そんなことはなかった。
俺が扉を叩こうとすると、古めかしい音を立てて扉が開いた。
中にはメイド服を着た女性のノーマルが。
「お待ちしておりました、スペサラーの方。ジーナ様がお待ちです。私はサナと申します。」
と、メイド服のノーマルのサナは深々と頭を下げた。
まさかジーナ様とやらは、俺が来ることを予知していたのか?これも占いの能力だろうか。
俺があれこれと考えていると、サナが「こちらへ」と中へ案内した。
建物の中は薄暗かった。広さは、外から見たよりは広く感じた。床は暗い青をしており、壁も暗い茶色をしている。
窓には薄いカーテンがかかっており、外の明かりは、ほんのりとしか入ってこない。
一階はエントランスホールのようになっており、右には上へと続く階段がある。階段の下も部屋になっているのか、扉がついていた。
階段の先は部屋があり、扉はこちらを向いている。その手前には、おしゃれなデザインの黒い冊があった。
サナは右の階段へ進んだ。俺も後をついていく。
扉には、なにかの花の絵がステンドグラスで書かれている。俺は花の名前には詳しくはないため、なんの花かは、わからない。
「コンコンコン」サナが三回軽くノックし、一呼吸おく。返事はないが、サナは扉を開けた。
「失礼します」
部屋の中は奇妙だった。変なものが置かれているとか、そういうわけではない。綺麗に整頓されているのに、雑然としている気がする。俺は謎の違和感を覚えた。思わず、周囲を見渡す。
部屋の壁は、本の山だった。三方が本棚になっており、囲まれている。俺が入ってきた部屋の正面には、もう一つ奥へ続く扉がある。中央には黒い机があり、青のクロスのようなものがかかっている。そして、机を挟んで椅子が二つ。黒い木のようなものでできた、立派な椅子だ。
壁の本に近づいて見てみたが、俺には読めない文字の本ばかりだ。
すると、奥へ続く扉が開いた。そちらを見ると、少女だった。この少女が「ジーナ様」だろうか。「様」と呼ばれているから、てっきり歳のとったおばあさんかと思っていた。
その驚きと同時に、見覚えのある顔だと気づいた。
「あっ! あの時の!」
気づいた瞬間、声を上げてしまった。俺は、両手で口を抑えるが、少女もサナも気に留めていない様子だ。少女は少し口角を上げると、俺を目の前の椅子へと案内した。
「こちらへどうぞ」
サナに椅子を引いてもらい、座る。少女も同時に机を挟んだ、俺の目の前の椅子へ座った。
「ようこそ。私は、ジーナと申します」
座るや否や、少女は自己紹介をした。やはり、この少女がジーナ様らしい。
「マトです」
一応、軽く会釈をする。
「街のみなさんはジーナ様なんてお呼びいただいているのですが、マト様はジーナとお呼びください」
確かに、この少女に様をつけるのは違和感がある。だが、マト様なんて。呼ばれたことがない。俺はスペサラーであるからなんだろうが、様なんて呼ばれるような人間ではないと思う。
「俺こそ、様だなんて。マトでいいですよ。マトで」
「いえ、マト様と呼ばせてください。私は、マト様がスペサラーだからという理由のみで呼ぶわけではないのです」
ジーナは手を胸に当て、心の底から、というように話す。まあ、なにか別の理由があるのなら、強要はしないが、慣れるまでに時間がかかりそうだ。
「わかった。ジーナ」
俺はジーナの気持ちを汲み取ることにした。ジーナは「ありがとうございます」と一礼した。そしてこう言った。
「マト様はこの世界に変革をもたらすお方です」
「・・・はい?」
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
感謝しかございません…
今回短めですが、長短は作者が適当に切っている次第でございます。ご了承ください。
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