ファタイトの街
「さて、どうしたものかな…」
俺は途方に暮れた。一人で一体何をすればいいのやら。
「とりあえず街へ行くか…」
ナサラーに出くわさないかとヒヤヒヤしながら、元アジトから一番近い街へたどり着いた。
運良く、ナサラーには出会わなかった。街へ着いた頃にはもう日が昇り、すっかりお昼頃になっていた。
眠たい目を擦りながら入り口の看板を見ると、『ファタイト』と書かれていた。
街へ足を踏み入れるとノーマルたちの声が聞こえてくる。
「花はいらないかい?ここの花は特別だよ!ジーナ様が直々に効く花を教えてくれたんだよ」
効く花?なんだそれは。俺が不思議に思っていると、反対からも声が聞こえる。
「この香草はいかが?特別なレシピで調合した効く香草ですよ!」
よくわからないが、夜にパーティを追い出され、夜通し歩いたおかげか、上手く頭が回らなかった。
「とりあえず宿に泊まろう…」
チラッと見えた宿の看板にフラフラと入っていき、そのあとは曖昧な記憶だが、ベッドに入ったと思った途端、深い眠りについた。
「…みません、スペサ…の方…で…よ」
…微かに声が聞こえる。まどろみの中ゆっくりと目を開けると、9歳くらいの少女が俺を見ていた。
少女は深く暗い紫がかった色の瞳で、不思議な雰囲気を醸し出している。髪は白く、肩くらいで切り揃えられている。服装は暗い青のワンピースだ。
俺がぼーっと眺めていると、
「スペサラーの方。もうお昼ですよ」
と反対側から宿の人に声をかけられた。
「ああ、もうそんな時間か…」
ゆっくりと体を起こす。大分疲れは取れたようだ。ふと少女がいた方を見ると、すでに少女はいなくなっていた。
「スペサラーの方。どうかされましたか?」
「いや、なんでも」
あれは夢だったのか?と不思議に思ったが、特に気にすることもなく、俺は代金を払い宿を後にした。
改めて街を眺め歩く。
街はグレーのレンガの建物が並び、道は青色をしている。全体的に落ち着いた街、といった印象だ。
ぶらぶらと歩いていると、昨日の花売りのノーマルがいた。
「花はいらないかい?特別な花だよ!」
そういえば、と俺は思い出し、花売りのノーマルに近づく。
「すみません。お聞きしたいことが」
「はい」
「効く花、というのは?」
昨日聞いた『効く花』というのが俺の中で、ずっと引っかかっていた。
花売りのノーマルは、少し不思議そうな顔をすると、俺の首元を見た。
「これはこれは!スペサラーの方!」
恐らく花売りのノーマルは、俺の首元の証を見たのだろう。
スペサラーは首元に、証として『スペサラーの証』の紋様が刻まれている。
俺が旅の者と知って納得したのか、花売りのノーマルは、話し出した。
「『ファタイト』は占いの街なんです。私たち街の者はジーナ様の占いを聴いて、こういった効く花を売っているんです」
と、色とりどりの花を見せる。
「ジーナ様、とは?」
「ジーナ様は占いの能力を持ったお方です」
占いの能力、か。スペサラーの特殊な力とはまた別のものだろう。職業選択に『占い師』のような類のものはない。
「ジーナ様というのは、どこで会える?」
「はい。この街の一番高い建物に」
花売りのノーマルは視線を移す。視線の先には他の建物より少し暗いグレーのレンガの、筒状の建物が。
「ありがとう」
俺は礼を言うと、その『ジーナ様』とやらがいる建物へ向かった。
ほんの暇つぶしに。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
感謝しかございません…
第一部から読んでいただいている方が大半でしょうか。本当に、本当にありがとうございます。
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