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戦記物の為の野戦戦術の歴史 ~近世まで

 〇概略

 戦争は小説の華だ。会議室でひたすら会議をするような御話しなんて誰も見たくない、まあ筆者はそこまで嫌いじゃないけど⋯⋯だけどヤッパリ戦争には華がある。有名な歴史家も平和はつまらんと言っているしな。なろうでも、チート野郎が大火力ぶっぱで即戦争終了とか色々ある。もうチョイ大軍の戦いを書きた~いという意識がある作品もあるが中々読者に嘲笑されない物を書くのは難しい、これがそういった人の助けになれば幸いである。



 〇戦術・戦略の考え方

 戦術とか戦略とか言われても良く分からんという人の為に、戦術と戦略の言葉を軽く説明する。戦争全体を勝利に導くための考えが戦略で、ひとつの戦場で勝利するための考えが戦術である。例えるなら、入試で合格するためにどういう風に勉強するかと言うのが戦略である。数学で100点を取っても英語が0点だったら足切りで不合格になってしまうだろう。そうならないようにバランス良く点を取らねばならない。


 戦略と言うのはかなり広範で政治が絡むのでマジメに考察するとキリがない。敵の同盟を崩すために敵国にどうやって動揺を与えるとか、帝国を瓦解させるために皇帝の悪行をバラしつつ自分たちをクリーンなイメージを群衆に植え付けるとかが戦略になる。


 ここでは、ひとつの戦場でどんな風に駒を動かせば恰好がつくかの話を記してゆこう。



 〇戦術の根底

 現代に入りハイテク兵器群の活躍により新たな極意が生まれつつあるが、古典的な戦術の極意は実は古代の時点で完成されている。即ち、敵を囲んで棒で叩く——”包囲殲滅”である。


 とは言え極意とは現実にはなかなか現出せず、その途中で戦闘が終了することがほとんである。囲まれそうになればそこから逃げ出そうとするし、指揮官に従っていれば囲まれて負けると兵が判断すると軍隊は崩壊してしまう。


 それに包囲には敵と同じぐらいの兵力は欲しい所である。圧倒的な兵力差がある場合を包囲は成立しない。むしろ包囲することによって敵を団結させる結果になりかえって危険な場合が多い。ライオンをビニール袋で閉じ込めようとしても引き裂かれて殺されるのがオチである。兵力が少ない場合は籠城するか、指揮官狙いなど敵の急所を狙う戦法に切り替えてゆこう。



 1.相手を包囲するために

 敵の軍を包囲する方法はふたつある。”延翼”と”突破”である。変わり種で分散進撃しての包囲というものもあるが通信機もない時代では連携が取れず各個撃破のリスクが高い。


①延翼:軍隊を横に伸ばして敵を包むように進める方法。

②突破:敵の軍団を分断し、それぞれを包囲する方法。


 延翼の条件としてやはり敵より兵数が優れている事だろう、横に伸ばす関係上どうしても陣が薄くなってしまう。そこを敵が集中して突破を図るとどうしても突破されてしまう。通信機がある現代ならまだしも、伝令をとばすしかない時代では総指揮官がいない側は孤立したも同然である。



 2.指揮官狙いの戦法・その他

 指揮官偉いの方法は奇襲・奇策何でもござれである。どうにもご都合主義に見えてな⋯⋯と言う人は敵の指揮官がいるところを工夫して包囲したり、そこに戦力を集中させてみてはどうだろう。


 桶狭間みたいに偶々突っ込んだところに総大将がいたと言うのでなく、ガウガメラのように包囲されつつありながらどうにかして敵の大将の所に騎兵を突っ込ませるとか、或いはレウクトラのように敵の軍団が連携できないようにしてから戦力を集中して殴るとかである。究極系としては関ケ原のように敵の軍団のほとんどを調略してから殴るのも良い。




 〇古代編

 古代の戦争では主力は市民たちで編成される槍と盾で武装した重装歩兵である。盾を左手に持つ関係上で右翼の兵士は最も防御が弱いため、ここに最精鋭の部隊が配備されることが多かった。この重装歩兵の密集陣形が有名なファランクスである。


 密集しているため圧倒的な防御力を誇るが、動きは鈍く方向転換もできないため、ほぼ真っすぐにしか進めない。だが平野でぶつかった場合ファランクスを組めない歩兵陣は槍衾を突破できずに一方的に蹂躙されることになる。基本的にはこのファランクスを中心に騎兵部隊・散兵・弓兵、場合によって投石器やバリスタなどの砲兵が援護する。ファランクスを中心としたこの軍団は古代における最強セットである。


 

 ここで何故、ファランクスが最強戦術足りえたか解説する。ファランクスはハッキリいて弱点だらけである。動きは鈍いし、槍の射程は所詮はスリングや弓と比較できる様なものではない。


 じゃあ、弓ばっかり揃えて引き撃ちしていればいいんじゃね。と思うのが人の常。だがそうはいかないのだ。弓は訓練に非常に手間のかかる代物だ。狙って撃つどころか平均的な距離を飛ばすだけでもかなりの訓練を要する。騎馬は貴族階級か遊牧民族の傭兵しか雇えないため数が不足しているか信用できないことが多い。


 つまり普段から馬も弓も扱わない都市市民を徴兵した場合、最も効率的に戦力化できるのが槍という道具なのだ。仮に敵の弓兵がトビンフットばりの超絶技巧の持ち主であっても10倍に平押しには敵わない。そしてファランクスは練度は落ちるといっても再び再編する事が可能である。天才と職人に頼る戦術は損害に非常にもろい。次に戦場で弓兵とファランクスが合いまみえるときはファランクス側が圧勝するだろう。



 この時代の変わり種の戦術に”斜線陣”がある。これは右翼側に戦力を集中させて敵左翼を崩壊させようと戦術である。右翼が先行し階段状に左翼が進撃することで兵力が少ない左翼が敵と接敵するまで時間を稼げる。さらに階段状に展開する事で先行している右翼を包囲しようと敵が行動した場合その側面を突くことが出来る。


 


 〇中世編 初期~中期

 中世になるとローマなどの巨大国家が消失し群雄割拠の混乱状態となる。王はいるが文化的にも政治的にも貴族同士の繋がりは薄く、~王国という名前の同盟関係とでもいうべき様相を呈している。彼らが連れてくる兵士は基本的にやる気がなく隙あらば逃散する。貴族レベルでもやる気がなかったりするのでお目付けがいないとすぐにサボる。質の悪いことにその癖、手柄欲しさに独断専行や命令無視して手柄第一主義なので事前の作戦をやり遂げるには王の権威と権力がかなりないと不可能である。


 この時代の王は、部下のやる気がなさ過ぎて負けることと同じぐらい、やる気があって負ける。やる気があると言うと語弊があるかもしれない。軍隊としての協調性が全くなく、面子第一の時代であり挑発に非常に弱い。『くっ…落ち着け、あんな安っぽい挑発に乗るな! うおおおおおっ!』レベルの即落ちレベルで挑発にかかるのだ。こうなると、歩兵部隊と騎兵の連携なんぞ絶望的である。


 なので、国王が見える位置で騎兵部隊を突っ込ませる。だが古代時代のように大規模な都市が衰退したため完全武装の重歩兵を揃えることが出来なくなったため、敵の重騎兵が突っ込んでくるとすぐに逃げ出す。


 中世の初期から中期にかけての最強戦術は”重騎兵を突っ込ます”の一言である。とにかく騎兵を突っ込ませば全て解決する。クロスボウや長弓兵の運用によって撃退した例もあるが、丘の上に杭を打ち込んでの野戦陣地構築による勝利である。以後、戦術は重騎兵の突撃をいかに防ぐかに焦点があてられる。



 〇中世 後期

 末法戦国時代の中世ヨーロッパも後半になると”国家”という概念の萌芽が芽吹いてくる。都市人口もある程度回復してきたため歩兵の大量動員が可能となった。ここで再び復活した重歩兵が長槍兵の大量運用である。長槍で武装した歩兵を正方形に展開するテルシオ方陣の登場である。この新しい密集陣形は鉄砲隊を侍らせ大砲に援護させており、槍衾が鉄砲隊を守り鉄砲隊が方陣を援護する形となる。


 この陣形の登場により重騎兵の突撃は著しく困難になった。ほぼ全ての騎兵が装備する槍よりも長い、巨大な槍衾が中世ヨーロッパを支配したのだ。戦術はこの陣形を打ち破るべく考案されるようになった。


 騎兵側の対抗方法として”カラコール”という戦術がある。騎馬にピストルを装備させてテルシオの槍の射程外から攻撃しようというものだ。だがこれはテルシオ周囲にいる鉄砲隊に撃退されてしまう。この時代では大砲は非常に重く野戦で使用するには色々不便な存在であった。


 テルシオ方陣にとどめを刺したのは鉄砲隊の集中運用であった。日本では三段撃ちの名称で知られる"反転後進射撃(カウンター・マーチ)"である。(三段撃ちには色々諸説があるがコレだと仮定する)銃隊を縦深10列に並べ、最前線の1列が射撃するごとに後ろに下がらせる。これに対しテルシオを援護する鉄砲隊は精々2・3列である。撃ちあいになれば敗北は必定。さらにテルシオはその密集状態から非常に遅い、二人三脚で行動しているのと変わらないのだ。



 〇近世

 カウンターマーチを銃で打ち破るにはどうすれば良いのか? マウリッツは縦深10列に並べこれを後退させることに連続射撃を行った。これと逆に列を3~4列にして一斉に射撃させて移動させずに射撃を行わせる。”斉射”戦術である。これは聞けば奇妙に感じるかもしれない、間断なく射撃をしている側が1分間に2~3回しか攻撃できない側に敗れるのだ。


 だがカウンターマーチの弱点は正に射撃後に後退するためにどうしても密集させれないのだ。つまり密集している側とでは瞬間火力が違うのだ。下の図は10人を並べた場合である。三列の場合恐らく連続射撃は出来ない。下手をすると密集陣形の射撃タイミングで前に出た列は一回の斉射で壊滅してしまう。


     密集 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


カウンターマーチ 〇 〇 〇 〇 

         〇 〇 〇

         〇 〇 〇

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