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『失われた手』

僕が奢った鳥串を平らげると、オリバーは「おかわりいいかい?」と聞いてきた。

「それじゃ、別の話をしてくれたら」と持ち掛けると、オリバーは、僕の顔を指さしながらニヤリとほほ笑んだ。

「いいだろう! こいつは船医のガブリエルから聞いた話だ……」

そういって、語り始めた。


船大工のペーターは、ゴブリンの軍船との戦いで左腕の手首から先を失ったドジな奴さ。

ホブゴブリンの首根っこを押さえつけて、斧で切りつけた時に、間違えて自分の手首を切りつけちまったのさ。

半分取れかけた手首なんざ、治療なんて無理だろ?

ペーターは「船大工の仕事は釘打ちだ」って言うから義手はハンマーにしてやったそうだ。

楽に釘が打てるって喜んでいたね。

とはいえ、船乗りで五体満足な奴なんざ、本物の海賊とは言えねぇ。

船の上じゃ、まともな薬も包帯もありゃしねぇんだ。

専属の治癒魔法が使える治癒師でもいなけりゃ、怪我をしたらすぐに破傷風で死んじまう。

だから、そうなる前に怪我した場所を切っちまうのさ。

切った場所は、たいまつで焼い血を止め、最後に、蒸留酒で消毒すればいっちょ上がり。

簡単なもんだろ?

海賊船の船医の仕事なんて、船大工よりものこぎりの扱いがうまいって影口叩かれることさ。

どんな屈強な海賊も、切り落とすときは金切り声を上げて大騒ぎだ。

だが、ペーターは、ジッと黙って自分の手首が切り落とされるのを見ていたよ。

あいつはドジだが凄い奴だ。

本物の海賊だよ。


手足を失った奴には、よくあることだが、失った部分に、感覚が残ってるって言うのさ。

無いはずの手足が、(うず)いたり、(かゆ)かったり、痛みが走ったり……。

欠損した部位の感覚、学者さんたちは幻肢(げんし)って呼んでるらしいが、ペーターの幻肢(げんし)は、ちょっと変わっていた。

女が手を撫でるっていうんだよ。

無いはずの左手をね。

「なんで女だってわかるんだい?」って聞くと、細くてやわらかい指だって言うんだよ。

はっきりとわかるってね。

「ありゃ、高貴な女の指だ」とペーターは笑っていたけどね。

まぁ、幻肢(げんし)ってのは個人差あるもんだから、そんなこともあるのかねぇって程度に聞いていたんだ。


ある日の朝、ペーターが言ったんだ。

今日は戦いになるって。

ここ数日、凪が続いて船はおろか、流木すら見ていないのに、戦いがある?

なんで、そんなことがわかるんだ? って聞くと、例の女の指が教えてくれるんだそうだ。

これまでも、女の指が撫でて来た翌日は、海沿いの村を襲ったり、商船と戦い略奪をしたりと、決まって戦いがあったんだと言う。

「しかも、今回は撫でるだけじゃなねぇ。俺の手を握ってきたんだ。ただの手つなぎじゃねぇ、恋人繋ぎだぜ」とニヤニヤしやがる。

「彼女は今もずっと握ってる。細くて柔らかい手の感触をずっと感じてるんだ」

その時、敵船を発見を告げるラッパがとどろいた。

「ほら、いった通りだろ?」

その途端、風が吹き始め、俺たちはすぐに表れた船に接近した。

またしても、ゴブリンの軍船だった。

そして、ペーターの言う通り戦いになったよ。

俺達は戦い、そして勝った。

だが、ペーターは帰ってこなかった。

敵船に乗り込んで死んだのさ……。

海賊が戦いで死ぬなんて、珍しいことじゃない。

ただ、不可解なのは奴の死因さ。

奴は、頭を潰されて死んでいた。

だが……どう見ても、

「奴の頭を潰したのは、奴の左手のハンマーだったんだ……」


ペーターの左手を握りしめていた女って……一体、何者だったんだろうね。

おかわりの鳥串をほおばりながら、オリバーは首を傾げた。

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