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『海賊の見た夢』

 ドラーテム王国の所領、カプト地方の西部に広がるカルラ荒原の中央に位置するオアシス都市・カルラオアシスは、爬虫類族であるレプティロイド(リザードマン)を始めフェレソイド(猫人族)や、ルプソイド(犬人族)といった亜人種を多く受け入れている辺境のオアシス都市である。

 よく言えば自由な気風溢れる街だが、悪く言えば犯罪率も高い吹き溜まりのような場所ともいえた。


 そんな街の裏路地には、営業許可すら取っていない屋台が並ぶ。

 そこで出会ったのが、一等航海士であるオリバーは、かのジャックジャックの船に乗ったことがあると豪語していた。

 ジャック・ジャックと言えば、ドラコニス大陸で知らぬ者はいない大海賊である。

 そんな彼の元で航海と戦いを学んだと饒舌に語りながらオリバーは鳥を焼いた鳥串を次々と平らげていく。

 さっそく僕は、いつものように「怖い話を教えてくれたら一杯おごりますよ」と持ち掛けた。

 ところが、オリバーから返ってきた言葉は意外なものだった。


「酒は無しだ」


 海賊と言えば、大酒飲みで知られている。

「酒が飲めない奴は海賊じゃない」という言葉があるくらい海賊と酒は切っても切れないモノである。

 それは長い航海中、飲める蒸留水を樽に入れても、数日にして緑色の藻が繁殖し、生臭い腐り水になってしまうため、アルコールを含むワインやエールなどを日常的に飲料水の代わりにする風習があるのだ。

 だからこそ海賊はほぼ全員が俗にいうアルコール依存症になってしまうというわけだ。

それなのにオリバーは酒を飲まないという。

 本当に彼は海賊なのだろうか?

僕の怪訝な表情に気づいたらしく、オリバーが顔を覗き込むようにして、こう言った。


「お前、俺のこと本当は海賊じゃないって思っているだろう?」


 図星だったが苦笑いを浮かべてると、


「じゃぁ、代わりに鳥串を奢ってくれ」


 そう言って語り始めた。



 俺だって、昔は酒におぼれたどこにでもいる海賊だった。

ジャックジャックは、凄腕の海賊だ。


「無抵抗なら不殺、抵抗すれば皆殺し」


 全てを略奪するが、抵抗しなければ命までは取らない。

このジャックジャック海賊団の掟は、ジャックジャックの名を知る者なら、誰だって震え上がる。

あの日、エルフの国、ウェントゥシルヴァからの商船から略奪した時も、簡単なもんだった。

 ジャックジャックのドクロの首元にナイフを描いた旗印を見ただけで、船員たちは帆に降伏を意味する白旗を掲げ、甲板に並んで、俺たちを出迎えかえたほどさ。

 わざわざ、積み荷の目録まで差し出してきてな。

一応、確認したら、積み荷は目録通り。

ウェントゥシルヴァ産の上質なワイン樽が満載されたよ。

 目録と違っていたのは一点だけ、乗客が一人足りなかった。

ま、航海では、海に落ちて一人や二人消えることなんざ珍しくもない。

気にすることでもなかったがね。


 その晩は、ジャックはウェントゥシルヴァのワインを、俺たちにふるまった。

全員で飲んだって、飲みきれないほどの樽をいただいたからな。

あとは、略奪した船を、ドラコニス最大の港、ドレスデネまで運ぶだけ。


 ドラーテム王国の南、ウェンテル地方に広がるドラコニス王国では、俺たちはお尋ね者になっちゃいない。

むしろ、その逆だ。

 ドレスデネを首都に持つ、ドラコニス王国は、俺たちに私掠免許を発行し、他国の商船を襲えっていう免罪符を発行しているのさ。


 私掠免許ってのは、国が発行している海賊許可証っていう奇妙なもんだろ?

だが、国も俺たちも、互いを利用し合っている。

要するにWINWINってことだ。

おっと、話がそれちまったな。


 問題は、次の日から起こり始めたんだ。

これがまた、奇妙なことなんだが全員が、女の夢を見るようになったんだ。


 俺も見た。

会ったことも無い女。その女が、おぼれ死ぬ夢だ……。


 海賊ってのは迷信深いもんで、一週間もたたないうちに、みんなまいっちまったよ……。

夢見たくないから、意識失うまでワインを飲んだ……。

 それでも、毎晩決まって夢を見た……目が覚めると、また浴びるようにワインを飲んだんだ……。

大樽のワインがあっという間に空っぽになっちまった。

殻になった樽は、中を開いて、海水で洗い、また再利用するのが普通なんだが、樽を開けたらさ。

 そこに入っていたんだよ……女の死体がさ……。


 どうりで一人、足りなかったわけだよ。

この女、俺達から逃げようとワイン樽の中に隠れて、そのままおぼれちまったらしい……。

 俺達全員、この死体が沈んだワインを飲んでたんだぜ……。



 約束通り、僕はオリバーに鳥串を奢った。

「俺は、あれ以来、酒が飲めなくなっちまってな……海賊稼業から足を洗ったのさ……」

彼はバツが悪そう鳥串をほおばると寂し気に微笑んだ。

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