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『塔の怪』

 コクサエ峠を越えるためにオブキュロス村に滞在している中、季節外れの吹雪によって、僕は村に足止めされていた。


 仕方なく再び円卓亭で食事をしていると、先日、話を聞いたカルクスさんから話を聞いたという冒険者のガーベラさんが話しかけてきた。


「おごってちょうだい。面白い話してあげるから」

「では、お願いします」

「じゃぁエールを一杯!」


ガーベラさんは、そう言って話し始めた。


-----


 冒険者になるまえは、ドラコニス王国の塔の守り人をやってたのよ。

要するに、見張り兵ってことよ。


 着任したのは、ドラコブルトの北にある頭でね、基本的に禁足地の左翼の森から何か出てこないかを見張るだけの仕事で、なーんにも起きないのよ。


 毎日、日暮れまで森を眺めて、夜の当番の人と入れ替わり交代するだけ。

石造りの塔は夏は暑いし、冬は寒い。

しかも、毎日暇ってことで。そんなことでお金もらえるからいいんだけど……若いからねぇ……。

名前を上げられる冒険者になろうかな?って思っていた時に、ドラーテムの国境近くの塔に空きが出たって話があって、声をかけられたのよ。

あっちは、サエウム荒原も近いから、ドラコニアンの蛮族の襲撃とか、名を上げるにはもってこいの場所だったのよ。


 せっかくだから休暇を取って、その塔の守り人長に会いにいったのよ。

その塔は、前の塔よりも低かったけど、門は鋼鉄製で頑丈だったし、守り人も2人態勢と、前の塔よりも待遇もよかったのよ。

ただ、守り人長が言うには、一点だけ。

とにかく守り人がすぐに辞めちゃうんだって。

 その話を聞いて、私は俄然、やる気が出たわ。

だって、辞めるくらい辛いってことは、きっと名を上げるチャンスが山のようにあるってことでしょ?


 もう即決で、この塔に移籍することを決めたわ。


 ところがいざ働き始めると、一緒に守り人をやっていた先輩のフェイの様子が少しずつおかしくなっていったの。


その塔は、屋上からだけでなく塔の真ん中あたりに窓もあって、そこからも周囲を見張れるようになっているのね。

その窓は、かなり大きめで、矢を放つこともできたし春先なんかは日当たりもよくて眠気を誘われるほどだったわ。

だから2人態勢の後輩である私が屋上で、先輩であるフェイが塔の中っていうのがルールだったんだけど、たまにフェイが、屋上に何かを確認しにきたり、ビクビクと何かにおびえたりし始めて……何より、そういう時は、決まって屋上から、下を確認してたのよね。


 私は疲れているのかなぁ?って思ってたわ。


 私はフェイの行動を気にするようにしてたら、その奇行は天気のいい日にしか起こらないってことだったわ。

私が気付いた頃には、フェイの奇行も、かなりの頻度になっていたけど……。


 秋の収穫祭の時。

休暇になったからフェイと守り人長を誘って飲んだのよ。

酒の勢いで何か聞けるかとも思ったしね。


 フェイが言うには、天気のいい日中になると、窓に飛び降りていく人影が見えるらしいの。


 最初は、虫か鳥でも飛んでいるのかと思ったそうよ。

とても、小さかったそうよ。

ただ……何度も見かけるうちに、それは人の形をしていて、その落ちていく人はフェイが見つけるたびに大きくなっていくのだそう。

年が開ける頃には落ちていく人間の服装や性別がわかるようになり、最近では表情までわかるらしい。


 落ちていくのは、決まって革鎧を身に着けた男で天気のいい日の昼間にだけ落ちてきて、その時間も決まっておらず、ハッキリ見えているのに顔の部分だけが思い出せない、というのがフェイの話だったわ。


フェイは、その落ちていく男を見つけるたびに、その行方を探して窓から下を探していたそうよ。


 最初は、おとぎ話みたいな話だし、悪霊の類にしては、回りくどいでしょ?

にわかには信じられないって思ってたけど……その話を聞いた翌日……フェイは塔の上から身を投げて死んだわ……。


 すぐに、後任の塔の守り人が決まって。

晴れて私が先輩になったってことで、塔の中から見張る係になったのよ。


 それはすぐ見えたわ。

最初は、蟲かゴミみたいなものが落ちていくんだと思ってた。

でも、だんだんとそれが人だってわかるようになったわ。


 でね、目が合ったのよ。

まだ小さいそいつと……フェイだったわ。


-----


 すぐに塔の守り人を辞めたわ。

それで、冒険者稼業になったってわけ……。


今も、フェイは、天気が良い日になるとあの塔から飛び降りているのかしら……。

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