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『黒山羊と黒エルフ』

「うわぁぁぁっ!?」


不意に目が覚めると僕は飛び起きた。


「夢か?」


 と、思ったらそこは森の中。

首筋を触ると、二つの噛まれた穴が開いているのが指先の感覚でわかる。


「夢……じゃないの?」


 すると、そこに声が響く。


「お目覚めかな? 異界人よ」


 振り向くと、そこには真っ黒な山羊がいた。

どこを見ているのかわからない目で、じっとこちらを見ているように思えた。


「うわぁぁぁぁぁぁ何!? 誰? 山羊? え? 山羊がしゃべったの?」


 僕は、情けない声を上げて後ずさった。

 黒山羊は、そんな僕をじっと見つめていた。


「助けて欲しいなら、選ぶがよい」


 やはり黒山羊がしゃべっている。


「え?」

「異界人よ、このままならヌシは死ぬ……確実に」

「死ぬ? って……僕が?」

「あぁ……少しばかり、我の黒マナを分けてやったからな……しばらくは動けるだろうが……すでにヌシは邪神モルスの呪いを受けた……ヴァンパイアに噛まれてな……」

「はぁ?」

「モルスの呪いを解くことは出来ん……つまり、どっちにしろ、このままならお前は死ぬ」

「でも、さっき何か選べって……」

「あぁ、モルスの呪いは解けぬが、この私の呪いで上書きすることはできる……」

「呪いの……上書き? ってあなたは?」

「我が名はバフォメット……この世界に封印されし邪神じゃよ……」

「邪神? って、悪い神様ってことですか?」

「そう悪いもんじゃない。かつては神と崇められていたんじゃがな……この地の神々によって、邪悪な存在とされたために、呪われし存在に堕とされただけじゃ……いわば、ヌシと同じ被害者じゃ」

「では、バフォメットさん……あなたの呪いを受けると、僕はどうなるんでしょうか?」

「大した害はない。我は封印されし存在……まだと(うつつ)に顕現することは叶わぬ……そこでヌシには、我に変わって黒マナを集めて欲しいのじゃ」

「黒マナ……ですか?」

「あぁ、この世界の命はマナの力で生きている。黒マナは、その逆のエネルギー……負の生命エネルギーよ」

「はぁ……それは、どうやって集めるものなんでしょうか?」

「恐怖じゃよ……人に恐怖を感じさせれば、そこに黒マナは生まれる……」

「恐怖……ですか。恐怖の瞬間を思い出させるのでもいい……ヌシが恐怖を食べれば、その力は我の元へと集まるだけ……たったそれだけの呪いじゃ……」

「なるほど……死ぬということに比べれば、リスクは低そうですね。でも、もし僕が、その黒マナを集められなかったら、どうなるんでしょうか?」

「しれたことよ……我との契約を破れば、その呪いは消え、邪神モルスの呪いにより、ヌシの命が消えゆくだけのこと……」

「えぇ……それじゃ死ぬまで誰かを怖がらせ続けろってことですか?」

「そうは言ってはおらん……ヌシが集めた黒マナにより、我が復活すれば……モルスの呪いなど、我の力で消し去ってやる……そして、貴様に自由を与えてやる」

「……なるほど。考えるまでもなく選択肢はないですよね」

「ヌシが死にたくなければな」

「わかりました。やりましょう!」

「契約成立じゃ……」


次の瞬間、ドンっと首筋の噛み傷に黒山羊がかみついた。


「痛っ!?」


 思わず転ぶと、黒山羊は耳元でささやく。


「これで呪いは上書きされた……あとは我との契約を守るだけじゃぞ……」


そう言った黒山羊の頭に、ヒュンっと飛んできた矢が突き刺さり、ドサっと倒れた。


「うわぁっ!? 何?」


すると森の漆黒の中からローブをかぶった女性が現れた。


「ちょっとだけ遅かったみたいね……わかってるの? あなた、とんでもないのと契約したのよ……」

「え? でも、契約した黒山羊さん、死んじゃいましたよ……」

「ふふ……面白いこというわね。こんなの邪神の依り代に過ぎないわ。もう契約は成立しちゃってるもの」


 そういう先から黒山羊はシュウシュウと音を立てて黒い煙を立てながら消えていった。


「で、どうしようかしら? 邪神の眷属さん」


女性がローブのフードを外すと、その女性の耳は、ツンっと長くとがっていた。


「あ? エルフ?」


 僕は、思わずゲームの知識でエルフと呼んでしまった。


「あら、異界人なのに……エルフを知ってるの? ただ残念なことに、私はダークエルフだけどね……」


 そう言った女性の肌は灰色だった。


「あ、あの……気になってたんですけど『いかいじん』って……何ですか?」

「あぁ、あなたみたいに別の世界から来た人の事よ」

「あぁ……異界人ってことか……」

「あなた、自分が何したかわかってる?」

「えっと……邪神って呼ばれる存在の手先になったってことですよね」

「えぇ……あなたを放置すると、邪神が復活しちゃうのよね」

「でも、あのままだと、僕が死ぬことになるんで……吸血鬼に噛まれたので……」

「え? それは本当?」


 僕は、ダークエルフの女性に首筋の穴を見せた。


「ドラコニスにも、いよいよ吸血鬼が入ってきたってことね……それはそれでほっとけないわ」

「はぁ……大変ですねぇ」

「あなた、運がいいわよ」

「え? 最悪ですよ」

「そんなことないわ……あなたは、今、アンデッドでもないのに、邪神に守られて簡単には死なない存在なのよ」

「え? そうなの?」

「だから、助けてあげる。その代わり……あたしに協力しなさい」

「それはいいんですけど……黒マナ集めないと結局は死ぬって言われましたけど……」

「それは集めればいいわ。簡単なことだもの……人に思い出させてあげればいいのよ、恐怖の記憶をね」

「恐怖の記憶? つまり……怖い体験談みたいなものを聞きまくればいいってことですか?」

「そんなところね。それを週に一度くらいやってれば死なないわよ」

「はぁ、そんなもんですか……ところで、ここは、どこなんですか?」

「そうよね……そこから説明しなくちゃいけないわよね。ついてらっしゃい。食事と今夜の寝床くらいは、提供してあげるわ。異界人さん」


 ダークエルフは、そう言うと踵を返して、歩き出した。

僕には、彼女についていく以外の選択肢は残されていないように思えた。



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