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『禁足地』(後編)

エルルーンは、僕が連れてきたコリンナを見て、全てを察しているようだった。

エルルーンはダークエルフの呪術師だ。

この村には彼女を魔女と呼に忌み嫌う者も少なくないが、彼らは、エルルーンが、この村に結界を張っているお陰で、魔物の襲撃を受けていないということを理解していないのだ。

ダークエルフは長命族として知られ、すでに数百年は生きているという。

だが、見た目はミステリアス雰囲気を醸し出す褐色の若く美しい女性だ。


「ルークス、あなたも来なさい。残念ながら、あなたもすでに『穢れ』との縁を結んでしまっているから……」

「マジですか……」

聞くだけで感染するような怪異は、洒落怖などでは有名だが、まさか自分がこうして巻きこまれることになろうとは……。


奥の部屋に通されると僕とコリンナに瓶から取り出した水を振りまいた。

「安心して、これは清めた水だから……しばらくは『穢れ』との縁を断ち切れるわ……」


そう言って僕らを座らせると、エルルーンは僕らの前に座った。

「お名前は?」

「コリンナです」

そう聞くと、目を閉じて、周囲の精霊たちと話をしているようだった。

「コリンナ……残念ながら私には、この穢れを祓うことはできません。そして封じることも……」

「それでは、私は……死ぬんでしょうか?」

「おそらくは……」

「そうですか……わかりました」

「え?」

僕は目の前で行われている会話が空恐ろしく感じた。

希望はないと突き付ける女と、それをすんなり受け入れる女。

一体、どんな人生を送れば、そんな境地に至れるのだろうか?

だが、エルルーンは、さらに過酷な現実を彼女に突き付けた。


「今のアルトシュタットは、施された封印は完全に崩れ、一帯が『穢れ』に冒されています。もはや普通の人間なら足を踏み入れただけで絶命する魔窟と化しています……私にも近づくことすらできません」

「そんな……」

「ですが、あなたは『穢れ』と直接縁を結んでいる生贄です。だからこそ、あなたなら、あの魔窟に入ることもできるはず……」

「エルルーン、何を言ってるんだ? 彼女にアルトシュタットに戻れっていうのか?」

「そうです」

「戻ってどうなるっていうんだ?」

「おそらくは死ぬでしょうね……」

「!!」

「でも……」

そう言ってエルルーンは紫色に光る結晶体を取りだした。

「これを持って行きなさい」

しばらく黙って聞いていたコリンナは、ようやく顔をあげると、すがるような面持ちでエルルーンに問いかけた。

「これを持っていくとどうなりますか?」

「これは浄化の魔石……穢れた力を光りに変える石です。うまくいけばアルトシュタットの『穢れ』を浄化することができるでしょう。でも、その為にはこれを祠まで持っていく他ありません。そして、それができるのはあなただけです」

エルルーンは静かにコリンナに告げる。

「わかりました」

僕はいても経ってもいられなくなり「僕も行きます」と言うが「あなたが行けば3分と持たずに血を吐いて死ぬわよ」とエルルーンは答えた。

「でも、俺だって縁を結んだんだろ?」

「えぇ……でも、あなたの縁はコリンナと結んだ縁……だから無理よ」

エルルーンがそういうと、コリンナが立ちあがり笑顔で言う。

「大丈夫です。私一人で行ってきます」

彼女はエルルーンから紫の魔石を受け取ると、夜明けを待ってアルトシュタットへと向かった。

「全てが終わったら、戻ってこいよ」

と僕が声をかけると

「そのつもりよ。その時は、今度は私がシチューを奢るわ」と笑った。


僕はエルルーンに礼を言った。

「彼女を救ってくれてありがとう」と……。

しかし、返ってきた答えは残酷なモノだった。

「誰も彼女を救うなんて言ってないわ。彼女は自分で『穢れ』との縁も持ったの。もう誰にも救うことなんてできないわよ」

「え? でも、あの魔石は? 穢れを祓うんじゃないのかよ!」

「彼女の持って行った魔石が、穢れを清めるのは本当のこと、でもその力は僅かなのよ……村がなくなり、忘れ去られた『穢れ』には、もう新たな力は生まれない。だからこそ、あの魔石が少しずつでも穢れを祓うことによって……数百年の後には、穢れは消えさることでしょうね」

「数百年って……それじゃ彼女は、コリンナはどうなるんだ?」

「言ったでしょ、死ぬって。『穢れ』の生贄としてね……そして魔石を抱いて死んだ彼女から浄化されて、あなたの縁との消えることになるの……」

「……」

「私は、あなたの命を救ったのよ……これで二回目ね」


静かに語るエルルーンの言葉に、僕は背筋が凍るような思いをした。


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