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『カロッサ鉱山』

ドラコニス大陸の北西部に広がるドラーテム王国の王都、ハルスベルグの酒場・アウルネスト(ふくろう亭)でフーゴ少年に出会った。

フーゴはリザードマンの少年である。

酒は飲まず、この店で一番安いライ麦のパンを、水に浸してはひたすら食べていたのが目に止まった。

僕は、フーゴ少年に声をかけると、怪異談と引き換えに、レンズマメのシチューを(おご)る提案をすると、彼はすぐに乗ってきた。


ドラーテム王国には亜人と呼ばれるリザードマンや、ケンタウロスといった獣人らで編成される傭兵騎士団である黒鉄靴騎士団(くろてっかきしだん)がある。

フーゴは、この騎士団の騎士見習い、俗にいう従者であった。

騎士見習いと言えば聞こえはいいが、要するに騎士の身の回りの世話をこなす雑用係である。

そもそも、冒険者用の簡略化された革鎧とは異なり、騎士などが用いるプレートメイルなどは、構造も複雑で、とても一人では着れる代物ではないので、こうした従者と呼ばれる存在が必要不可欠でもあった。

特に、亜人を中心に傭兵で編成される黒鉄靴騎士団(くろてっかきしだん)は、城壁の壁外警備の仕事など、多くの危険を伴う任務が与えられており、従者と言えども、騎士抜きで兵働きさせられることが日常茶飯事であったという。

フーゴ少年は、そんな日常の中で自らが体験した話を披露してくれた。


それが、二カ月ほど前のことなんだ。

二週間ぶりの休暇の日の朝、いきなりロロ団長の号令で、従者が集められたんだ。

非番で城の中に運悪くいた従者は、僕を含めてたったの二人。

僕と犬人族のイゴルだ。

正直、僕は、イゴルと仲が悪い。

ハッキリ言って犬人族が好きじゃないんだ。

あいつらときたら、すぐに僕達リザードマンを臭いといってバカにするからね。

だから、そんな時は言ってやるんだ。

コボルト野郎ってね。

コボルトも、犬に似た顔をしているけど、オークやゴブリンに近い鬼族なんだそうだ。

でも、似ているから犬人族をバカにするときはコボルトって呼んでやるのが一番の屈辱になるんだ。

おかけで、しょっちゅうケンカしては懲罰房(ちょうばつぼう)に叩き込まれるんだ。

そんな奴だから、正直、任務を言い渡されたときは最悪の気分だったよ。


任務っていうのは、村人が、西の荒野で、なんかたくさんの人が出入りしている廃坑があるっていうんだ。

ここら辺には、廃坑がたくさんあるからね。

大抵の場所は、鉄鉱石を掘りつくして廃棄されたか、掘りすぎて坑道の強度が弱くなって崩落事故を起こしたかのどっちかなんだよね。

でも、そんな場所は盗賊やら蛮族の格好の隠れ家になるからね……。

だから、そういう通報があったら、確認するのも騎士の仕事なんだ。

ま、要するに騎士が出払っているから、従者に確認してこいっていう任務だ。


通報があったのは、ハルスベルグから半日のところにあるカロッサ鉱山跡。

僕とイゴルは、一言も口を利かずにカロッサに到着したよ。

口はきかなくても、やることはわかっている。

鉱山の出入り口から人が出てくるのを確認するってことだ。

冒険者の類なら危険度は低いが、盗賊だと高くなる。もしも蛮族(ばんぞく)のドラコニアの民だったら、見つかっただけで間違いなく殺される。

騎士でもない二人だから、偵察して確認したら、報告に戻ればいい。

それ以上のことは、ロロ団長も期待していないだろう。

麻布(あさぬの)をかぶって、半日、出入り口を伺っていたが、人の出入りはなかった……。

間もなく夕暮れになろうかという時。

突然、人気(ひとけ)の無かった坑道から人が出て来た。

それも一人二人じゃない。

列をなして、ゾロゾロと……。

姿形はつるはしとバケツ、オイルランプを手にしていて、ただの鉱夫のようだった。

廃棄されていたけど、新たな鉱脈を誰かが見つけ、それが噂になって、採掘に来ているに違いない。

僕は、鉱夫たちがいずこへと消えた後、報告に戻るため麻布(あさぬの)をたたんでいると、イゴルが信じられないことを言い出した。

「坑道に入ってみよう」

「何を言いだすんだ! そんなの任務にないぞ!」

「何を掘り出してるか気にならないか?」

「何って、ここいらの鉱山は鉄鉱石に決まっているだろう」

「鉄鉱石ごときで、あの人数が集まると思うか? 俺はもっと高価な、宝石やらミスリル銀が出るに違いないって思うぜ」

そういうと、イゴルは坑道へと向かった。

「見つかったら危ないだろ!」

「いや、あれだけの人数が出ていったんだ。きっと今日の作業はおしまいってことだろ。それにドラコニアの蛮族(ばんぞく)じゃなさそうだし、危険もないだろ」

「でも……」

「ったく、これだからリザードマンは……臆病者の臭いがプンプンだぜ」

「何を!」

「俺はコボルトと違って、勇敢な犬人族だからな」

そう言われると、悔しくて、僕はイゴルと共に鉱山の中へと入った。


扉を開けると、埃臭いにおいがツンと鼻をついた。

「ほら、やっぱり誰もいない……」

だけど、何か違和感が得た。

「何かおかしくないか?」

「おかしいことなんてないだろ」

そういうと、イゴルはどんどんと坑道の奥へと歩き出した。

床一面に広がった埃にイゴルの足跡が残っていく。

「待て! イゴル」

「なんだよ、いちいちうるせぇな!」

「お前の足跡……ついてるんだけど……」

「当たり前だろ、歩いてんだから」

「いや……さっき出てった奴らのは?」

ハッとなるイゴル。

この坑道には、ずっと長い間、誰も出入りしていないのだ。

だから足跡は僕達が踏んだところにしかついていない。


僕達は何も言うことなく、ダッシュで坑道をから飛び出ると、そのまま走ってハルスベルグへと戻ると「坑道には誰もおらず、出入りしている様子もなかった」と報告した。

どうせ、言っても誰も信じちゃくれないからね……。


あの出て来た人たちは、なんだったんだろう……。

後日、聞いた話だけど、カロッサ鉱山は、鉱山の奥で大きな崩落があって、鉱夫が100人以上も生き埋めになったのだと聞いたよ。


フーゴ少年はレンズマメのシチューに浸したライ麦パンをほおばりながら、語っていた。


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