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「おい、あれ......」「麗奈ちゃんだ、今日も可愛いなぁ」「声かけてこいよ」「無理だよ、高嶺の華すぎる」
ヒソヒソと周囲の人が話す中、白井麗奈は堂々と歩いて......なにもないところで盛大に転んだ。
登校時間の下駄箱近くであったため、多くの生徒がいる中での失態である。そのため周囲の人達はぎょっとして見ていたが、当の本人は床についている汚れを拭おうとしたフリをして誤魔化そうとしていた。......全く誤魔化し切れていないが。
そんな微妙な空気を気にすることなく、当人はどこ吹く風で立ち上がりそのまま歩いて行った。
「まぁ......麗奈ちゃんだしな」「どこか抜けてるんだよなぁ、そこが可愛いんだけどさぁ」「他は完璧なんだけど......」
一部始終を目撃した生徒は、颯爽と歩いていく麗奈の後ろ姿を、どこか納得したような、してないような表情で見つめていた。
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「麗奈、おはよ! また盛大に転んだらしいね」
「あっ、涼子おはよう。別に転んだ訳じゃないよ?うん、汚れが、ね?気になってさ。......ほんとだよ?」
声をかけてきた幼馴染み兼親友の佐渡涼子に挨拶を返しながら、今朝の失態の言い訳をしていたが、涼子は「いつものことだから」と聞き流している。
容姿端麗、運動神経抜群、良家の出身という高スペックである白井麗奈だが、普段の言動が残念であるため、周囲の評価は『残念美少女』である。そのため今回のように、いつものことと流されることが多い。
本人は流されたことに気が付いて唇を尖らせていたが、涼子がポケットから出した飴を見てすぐに機嫌を直した。この流れも残念な印象を強くするものだとは本人は気付いていない。
「そういえば涼子、課題やった?」
「現国の課題でしょ?やったけど、そういう麗奈は?」
「やったよ! でも課題が学校行きたくないってだだこねてさぁ」
「つまり忘れたわけね......なにやってんだか......」
麗奈は涼子にジト目で見られ、冷や汗を流しながら明後日の方向を見ている。睨んでも意味がないと思って涼子がため息を一つ吐いたのをきっかけに、麗奈はすぐに話題を昨日のテレビの内容に変えた。
しばらく他愛のない話をしていたが、朝のHRの予鈴が鳴ったために涼子と別れ、自分の教室へと入った。自分の机の前についたとき、教室内のざわめきとはどこか違う声色で、囁くように、けれどはっきりとした声が聞こえた。
『ミツケタ......ハヤクシナイト......』
「......?」
周囲を見回して見たが、誰も自分に話しかけている様子はない。
気のせいか、と鞄を机におろそうとした時、にわかに教室の中がざわめいた。
周囲の視線が外に向いているのを見て不思議に思い、外を見てみると......それはそれは大きなコンドル(....)がこちらに突っ込んで来ていた。
「......は?」
窓ガラスが割れる音がしたと同時に頭に衝撃が走る。そして、意識を失った。